ラナシ→ブッダ・ガヤー
–Varanasi to Buddha gaya-
私を乗せたインド鉄道は、13時間の大遅延を経て深夜11時にようやく出発した。
私が乗っているのは、ローカルだらけの寝台車両。
安いスリーパークラス。
ベッドというよりは、ただの荷台だ。
私はインド人男性たちに囲まれながら、3段席の最下段で眠っていた。
何かが身体にコツリと当たった様な気がして、目を覚ます。
見ると、私の足元の少し空いているスペースにインド人男性が2人ほど腰をかけていた。
そう、それが他人の予約席だろうがなんだろうが、空いているスペースがあれば使うのが「インド流」。
彼等は自由席を購入して流れて来た人たちか、そもそもチケットすら購入していない無賃乗車か。
いずれにしても、私が購入したこの席を使う権利は、彼等にはない。
寝起きの鈍い頭で必死に考える。
私は、今どう対応するのがベストかと。
①「ここは私がお金を出して買った席」と主張して移動してもらう
うん。これは正論。真っ先に思いついた。
そう主張する権利が、私にはあるのだ。
②これが「インド流」と、大人しく受け入れる
・・・・・・。
考えた末、今回は②を選択する事にした。
①は、「日本人的」な発想だ。
これが正論と思うのだけど、それはあくまでも「日本の常識」。
しかしここはインド。
周りのインド人たちも、当たり前の様にこの現象を受け入れているのだ。
その事について、抗議をしている人なんていない。
私は、あえてローカルな座席を選んで買っている身。
ローカルフードを食べ、ローカルと一緒に移動をする。
快適ホテルで日本水準に近いサービスを受けるのではなく、安宿に泊まりトイレシャワーを浴びる。
もちろん金銭的な理由もあるけれど、できるだけローカル目線で旅がしたいと思っているから。
だから、休暇を利用した快適な短期旅行ではなく、あえて長期のバックパッカースタイルに挑戦してみたのだ。
ローカルな座席を自分で選んで買っておきながら、「日本人的」な価値観で彼等に接するのはよくないのかなと感じた。
そうしたいのならば、もっとお金を出して中流階級のインド人がいるクラスを選ぶべきだ。
…という事で、私はこの「インド流」を受け入れる事にした。
もっと密着してきたりと、「迷惑」に感じる様になったら主張しよう。
今はまだ、一応控えめに座ってくれている。
そして私はまた、眠りにつく。
もくじ
ガヤーからブッダ・ガヤーへ
どこかの駅に止まった気配がした。
なんとなく地図アプリを見てみると、そこは目的地「ガヤー」だった。
何分停車するかもわからないから、慌てて準備して列車から飛び出す。
深夜のガヤー駅
時刻は朝4時。
出発時刻は13時間も遅延したというのに、所要時間は5時間と予定通りだ。
ここ「ガヤー」から目的の「ブッダ・ガヤー」までは少し離れているため、オートリクシャーを使う予定。
しかし深夜の移動は危険を伴うので、夜明けまで駅で待機をする事にした。
待合所などはないのかとホームを出る。
階段を降りると、数人のリクシャーワーラーが近寄ってくる。
あぁ、もうすぐそこが外になるのか…。
駅のホームに戻り、ベンチで夜明けを待つ。
6時を過ぎると、だんだんと明るくなってくる。
念の為もうひと踏ん張り、7時まで待って外に出る。
ブッダ・ガヤー行きの乗合リクシャー
駅の階段まで登って来たリクシャーワーラーは無視をして、外にいるリクシャーワーラーと話す。
何人ものリクシャーワーラーに囲まれる。
とりあえず、群衆に向かって値段を聞く。
皆一様に「200ルピー(360円)」と答える。
これは、一人でリクシャーを独占した場合。
シェアリクシャーの値段を聞くと、またも一様に「100ルピー(180円)」と答える。
私は、あらかじめ調べていた相場の「20ルピー(36円)」を主張する。
しかし、100ルピー (180円)から一向に下がる気配がない。
作戦変更。
既にリクシャーに乗って待機している「乗客」に値段を聞きに行く。
しかしリクシャーワーラーが割り込んできて、現地語で「100ルピー (180円)と答えろ」みたいな事を言う。(たぶん)
その乗客は、私に「100ルピー (180円)」だと答える。
しかし私もめげない。
「シェアの値段だよ!」と再度聞いてみる。
するとその乗客は、非常に気まずそうな表情でぼそりと呟いた。
「…10ルピー(18円)オンリー」
おぉ~い!相場の10倍はやり過ぎだー!
「彼が10ルピー(18円)だと言っているよ!」と主張すると、「あっちへ行け」と追い払われた。
別のリクシャーワーラーが「50ルピー(90円)」と言うので、それで了承する事にした。
それでも5倍だけど。
ローカルプライスで乗るのは難しい。
私は「外国人」。
その事で、こうして損をする事もある。
だけど、逆に優遇される事もある。
だから、トータルで言えばおあいこなんだろうね。
1台に8人程を乗せて、リクシャーはブッダ・ガヤーを目指す。
30分程で、ブッダ・ガヤーに着く。
降りようとしたら、「ゲストハウスはどこ?そこまで乗せるよ」と言われる。
優しいな~と思っていたら、「追加50ルピー(90円)だと言う」
いやいやいや…なぜ町内を少し移動するのに、トータル金額が2倍になるのか。
じゃあ乗らないとリクシャーを降りると「追加20ルピー(36円)」にまけてくれた。
でも乗らないよ。
そもそもローカルの5倍も払っているのに、まだむしり取ろうとする魂胆が気に食わない。
ブッダー・ガヤーのストーカーたち
歩いていると、通行人やバイクの運転手がストーカーの様についてくる。
これは、バラナシではあまりなかった光景。
リクシャーの客引きかお店の客引きか、とにかく「客引き」とわかる人ばかりだったのに。
「どこ行くの~?探すの手伝ってあげるよ~」
ただの親切な人でない事は、直感でわかる。
だけどただの親切な人を装って声をかけてくるから厄介だ。
目当ての宿の場所がよくわからず、もう一軒チェックしていた宿に向かおうとする。
しかしその場所はここから少し離れていて、その間ずっとこの男たちがついてくるのかと思うとウンザリ。
それに私は、昨日の「バラナシ15時間の脱出劇」を経て疲れている。
彼らから逃げる様に、目についた宿に適当に入ってみる。
ロビーの客もホテルマンも、真っ白い衣装に身を包んでいて気になったから。
ホテルの値段交渉
値段を聞くと、「1200ルピー(2160円)」と言われる。
あぁ、完全に予算オーバーだ。さようなら。
立ち去ろうとすると、引き留められる。
「いくらを希望しているの?」
本当は、300ルピー(540円)くらいまでが希望。
だけど1,200ルピーと言われて、300ルピーとは言い難い。
「500ルピー(900円)」と答える。
「700ルピー(1260円)でどうか。フィックスプライスだ!」と言う。
フィックスプライスか…私には場違いな場所だったみたいだ。さようなら。
するとまた引き留められる。
「500ルピー(900円)でokだ」と。
なんだ、言ってみるものだ。
WiFiがロビーでしか使えないのが難点だけど、部屋もまぁまぁだしとここに決める。
宿の人は穏やかで心地よい。
私がいつも40ルピー(72円)で買っているトイレットペーパーをくれた。
使い捨てのシャンプーを二袋もくれた。
わざわざ部屋までついてきてくれて、設備などを説明してくれた。
(1度見に行っているから場所は知っているのに)
共用のバルコニーに出て、あれが〇〇寺院だよと教えてくれた。
あぁ、だけど水がね…溜めると茶色い。
手を洗うと、若干錆臭い。
これからはチェック項目に「水質」も追加しよう。。。
ブッダ・ガヤーのレストラン探し…苦戦
まずは昼食を食べたい。
昨日の疲れが癒えていない私は、少しローカルから離れたい。
少し高くてもいいから、観光客向けのレストランかカフェに入りたい。
しかしこの街にそんなものはないみたいだ。
イノシシもいるし。
うん、あれくらいの感じで妥協しよう。
インド料理はお休みして、大好きなモモを注文。
出てきたのは、チベット風ではなくネワール風の丸いモモだった。
味は普通。チベット風の方が好きだな。
だけど、ラッシーがとても美味しい。
そして、このお店は居心地がとてもよい。
店員との距離感が、とても丁度よい。
仏教の聖地|ブッダ・ガヤー
ブッダ・ガヤーは、「ブッダが悟りを開いた土地」。
仏教徒にとっては最大の聖地。
ネパールのルンビニ(ブッダが生まれた土地)同様、各国からの巡礼者を受け入れる為のお寺が散在している。
ルンビニの方が国数は多かったと思うけど。
【世界遺産】ブッダ生誕の地ルンビニで寺院巡り|たった1日で世界旅行
ルンビニで散々見たので、「全てを見に行こう!」と意気込むまではしない。
目についたお寺だけ立ち寄る事にした。
宿の近くにあるのは、スリランカ寺。
中には神々しい仏様。
ブッダ・ガヤーの鉄道オフィスと「自称ガイド」
14:00に閉まるので、街にある鉄道オフィスに向かう。
明日のデリー行きのチケットを買うためだ。
カウンターの外にいる係員風の男が、親切に申込書の書き方を教えてくれた。
しかし明日の列車は全て満席で、2,400ルピー(4,320円)の高い席しかないという。
明後日なら、希望のスリーパークラスが空いていると。
しかし私は、事情があってどうしても明後日の日中までにはデリーに着きたい。
デリーまでは11~16時間ほどかかるから、明日の出発じゃないと間に合わない。
「バスで行くことはできるか」「今夜発はないか」「アグラまでのチケットはあるか」と色々尋ねる。
すると、なんと明日の14:20発のチケットが予約できると言う。
え…じゃあ何で「満席」って言ったんだろう。
値段は、1,475ルピー(2,655円)。
相場を調べていないから断言はできないけど、これは高いんじゃないかと思う。
代理店を通していない直接予約なのに。
親切にサポートしてくれた係員風の男は、実は「自称ガイド」だった。
この男にマージンが入っているんじゃないかと疑う。
そう考えて少し迷っていると、カウンターの中の係員に舌打ちをされる。
確認するすべはないし、明日出発する事が優先なので了承して購入。
自称ガイドがついて来ようとするので、「ホテルで休みたいから」と言って断る。
・・・
初めて見る謎の食べ物パトトク(36円)を屋台で購入。
これはアツアツなら美味しいのかもしれないけれど…ぬるくてイマイチだ。
それよりも何よりも、居心地が悪い。
店員(?)の態度も悪いし、話しかけてくる男が鬱陶しい。
最初は店員なのかと思って相手をしていたのだけど、ただの「自称ガイド」だった。
そそくさと退散。
ブッダ・ガヤーの「超高級カフェ」
歩いていると、求めていた「カフェ」を発見。
いいお店だったら、明日の朝食はここで食べよう。
あぁだけど物価が異様に高い。
ノーマルなコーヒーが、100ルピー(180円)以上もする。
バラナシの外国人向けカフェだって、もっと安かった。
一番安いエスプレッソ(87ルピー/156円)を頼む。
すると、先ほど路面店で飲んだ10ルピー(9円)のチャイと同じ量の手のひらサイズのカップで出てきた。
これは…値段的には超高級カフェだね。
それよりも何よりも、店の居心地が非常に悪い。
店員全員の態度が悪い。
あぁ、店選びのマイルールを破って「客が誰もいない店」なのに入ってしまったからか。
高級カフェのくせに、500ルピー札での支払いに難癖を付けられる。
これしかないと言うと、投げつける様にお釣りを返された。
金づる外国人
歩いていると、色々な人が声をかけてくる。
客引きなら…まぁ、わかる。
鬱陶しいけど。
リクシャーの客引き、路面店の客引きにプラスして、歩行者やバイクの運転手まで声を掛けてくる。
そして、いつまでもいつまでも、ストーカーの様に付きまとってくる。
無視をしても、強めに「No」と言っても彼らはめげない。
「何で?お金は取らないよ?」
「手伝ってあげたいだけだよ?どこ行きたいか教えてよ」
そしてこれが「日本語」だから、なぜか腹立たしさが増してくる。
大袈裟ではなく、すれ違う全ての人に声を掛けられている様に感じるほど。
まるで芸能人にでもなった様な雰囲気だ。
そしてそれは、決して「好意的」な理由からではない。
その裏にある「悪意」が、丸見えだ。
あぁ、ブッダ・ガヤー。
私、嫌いだブッダ・ガヤー。
交通量はバラナシと比べて少ないから、そういう意味では歩きやすい。
だけど、ここは街全体の雰囲気がバラナシとは全然違う。
すれ違う全ての人に、「金づるが歩いている」という視線を浴びせられている様な気分。
わかるんだよ。
私の事「金づる外国人」と思っているのか、「人種は違えど同じ人間」として見てくれているのかなんて。
バラナシでは、確かに「外国人をターゲットにしている客引き」は鬱陶しかった。
だけど「ローカルをターゲットにしている人」は、とても居心地のよい空間を作ってくれた。
その比率は、後者の方が圧倒的に多かった様に思う。
前者の方が、印象が強烈なだけで。
だけどこの街は、「いかにこの女から金を巻き上げるか」という事にしか興味のない輩で満ち溢れている。
あぁ、なんて居心地の悪い街なんだろう。
今のところは、大嫌いだ。ブッダ・ガヤー。
私は明日、この町を去る。
このままでは、ブッダ・ガヤーの印象が悪いままで固定されてしまう。
私はこの旅で「嫌い100%の町」を作りたくはない。
その町のいいところを一つも見つけられなかったなんて悲しすぎるし、一部の人々の印象がその町全体の印象になるのは、「普通に」暮らしている人々にも申し訳のない事の様に思う。
なんとかしなければと、アンテナを張って歩く。
すると見つけた。
ローカルで賑わう良さげなチャイ屋さん。
値段を聞くと、5ルピー(9円)のコップと10ルピー(18円)のコップがあると教えてくれた。
若干しか大きさが変わらない様に思えたけれど、10ルピー(18円)の方を選んだ。
だってこのチャイ屋のおじちゃんは、私を「同じ人間」として見てくれているのがわかるから。
ローカルの客たちが、チャイを飲む私に注目をしている。
しかしその視線にも、「悪意」は感じない。
ただなんとなく物珍しくて、ついつい見ちゃってるだけだ。
このチャイ屋さんに出会えてよかった。
やっぱり普通に生活している人は、きっともっとたくさんいるんだ。
私が出会えないだけで。
チャイ屋さんの近くに、夜の闇に輝く仏様がいた。
ここは、バングラデシュ寺だ。
敷地の建物内で、人々が熱心にお祈りをしている。
私はそこに混ざる勇気はないから、外のベンチに座る。
お経の声はマイクを通して、外まで聞こえてくるから。
15分ほどで、お経は終わった。
世界遺産|マハーボディー寺院
マハーボディー寺院(大菩薩寺)の近くを通りかかる。
ここは、「ブッダが悟りを開いた場所」として、世界遺産にも登録されている。
明日行こうと思っていたのだけど、夜に輝く寺院に惹き付けられて、ついつい入場をしてしまう。
入場料は無料だけど、カメラ持ち込み代が100ルピー(180円)。
途中の荷物検査でPCが引っかかったので、宿に置きに戻って再出発。
(PCと携帯電話の持ち込みはNG)
この光輝く巨大な建築物が、マハーボディー寺院の本堂。
この本堂の周りを、時計回りに裸足で歩く。
本堂のすぐ裏手には菩薩樹があり、その根元で人々が熱心にお祈りをしている。
ブッダの本名はゴータマ・シッダールタ。
現ルンビニ(ネパール領)で王子として生まれたシッダールタは、人生の苦悩を実感し、解脱への道を求めて出家。
出家後6年を経た35歳の時に、この樹の下で49日間の瞑想に入り、悟りを得て「ブッダ(覚った人)」となった。
現在の木は、当時の木の直接の末裔なのだとか。
悟りを得たブッダは、この道を歩きながら、この悟りを人々に理解させることができるのかと考えていたという。
境内のいたるところで、人々がお祈りをしている。
蚊帳の様な空間にひとり篭り、深い瞑想の世界に入っている人もいる。
ここは、仏教徒にとっては最大の聖地。
とても静かで、神聖な雰囲気。
世界遺産だからといって、観光客でざわざわと賑わっているなどという事も全くない。
ブッダガヤ、これが本来の姿なんだよね。
・・・
夕食は、昼にも行ったレストランにした。
このレストランは、居心地がいい。
インド料理の中でお勧めを聞いたら「タリセット」を勧められた。
新しいメニューに挑戦したかったのだけど…今日はいいか。
ヒマラヤで出会ったイングランド人のイアンが、ナンやチャパティをヨーグルトに付けて食べるのが「インド流」だと教えてくれた。
私はそれを聞いていなかったら、普通にデザートとして食べていたと思う。
ありがとうイアン、ヨーグルトに付けて食べるの美味しいね。
探してみれば、素敵な出来事はたくさんあった。
「嫌い100%」にはならなかったよ、ブッダガヤ。
素敵な人は、この町にもたくさんいる。