バラナシ -Varanasi-
今日はブッダガヤーへ列車移動の日。
インドで一人で列車に乗るのは初めてなので、うまく乗れるか不安。
午前10時発の列車を予約してあるので、1時間前には着きたいと思い午前8時に宿を出る。
まずはリクシャーでバラナシ駅へ
最初に見つけたサイクルリクシャーに値段を聞くと、「200ルピー(360円)」と言われる。
論外だ…と思いその場を離れようとすると、「いくらだ!?」と聞かれ「50ルピー(90円)」と答える。
「50ルピー(90円)は無理だ、100ルピー(180円)はどうだ!?」と言われる。
無視して次のサイクルリクシャーを探そうとすると、2人同時に来た。
一人は「70ルピー(126円)」だと言う。
う~ん、悪くはない。
それを聞いて、もう一人が「50ルピー(90円)」と言う。
「え!?本当に!?50ルピー??」と聞くと、「70ルピーだ、乗れ乗れ!」と2台目のリクシャーワーラーが急かす。
あぁ、私はそういう強引なのは嫌いなのだよ。
50ルピーだという3台目のリクシャーに乗ることにした。
あ、しかしバラナシ駅までの所要時間を一応聞いておこう。
場合によっては、オートリクシャーに乗らなくちゃ。
彼は私を乗せて、既に走り出す準備に入っていた。
「バラナシ駅までの時間はどれくらい!?」と聞くも、「OKOK」みたいな感じでニヤニヤされるばかり。
彼は、値段のやりとり以外の英語ができないみたいだ。
「ち、ちょっと待って!時間は!?時間!」
すると街の人が助けてくれた。
「どこまで行くの?」
「バラナシ駅!」
「それなら、混んでいても30分ほどだよ。」
あ、それならよかったよ。
少し走って、止まる。
彼は一旦リクシャーを降りて、日よけを出してくれる。
その間に、別の男が近づいてくる。
「どこに行くの?」
「……バラナシ駅」
「いくら?」
「……50ルピー」
「おぉ、凄く安いね」
彼が何者かは知らないけれど、客を横取りしようとしてきた別のリクシャーワーラーなんじゃないかと思う。
しかし、やはり50ルピーは安いのか。
相場より安すぎるなら、それはそれで心配。
あとで揉める可能性が高まる。
リクシャーは順調に、バラナシ駅を目指す。
そして30分ほど経ったころ、ここが駅だと降ろされる。
私は、彼に約束通り50ルピー(90円)を渡す。
特に何事も起こらなかった。
まぁ、強いて言うならば、駅の目の前までは行ってくれなかった事くらいか。
私は、あそこを目指して歩かなければならない。
だけどもの凄い交通量だから、リクシャーで行くよりは歩いて横断するのが正解か。
そして始まる、バラナシ駅からの脱出劇
私はこの広大な駅構内で、1時間以内に自分の列車のホームと車両まで辿り着かなければならない。
まずどこへ向かえばいいのかと困っていると、親切な人が私のチケットを見て「あっちだ」と教えてくれる。
うん、あっちだね!と向かおうとすると、煩い人が「こっちだこっちだ」と一緒に付いてくる。
いや、それは今聞いたから知ってるよ。
付いてこなくていいよ。
そっちの方に行くと、電光掲示板があった。
あれを見てみよう!と思っていると、「こっちだこっちだ!」としつこい。
私はあなたが嫌いだから、例えそれが事実でも頼りたくはないのだよ。
しつこくされて困っていると、青年が声をかけてくれた。
そして私のチケットを見て、「ディレイしているね、出発は14時だよ」と言う。
まさかの4時間遅れ。
そして、トラベルオフィスへ私を誘導する。
何故だかわからないけれど、そこで座席の変更をする事になった。
このオフィスの奥のスペースを使ってよいと言われた。
綺麗なソファーがたくさんある。
比較的清潔なトイレもあるし、なんとシャワールームまである。
駅構内とは別次元の、快適空間だ。
ここにバックパックを置いて、外に出てみる。
お洒落なWiFiカフェでも探してのんびりしよう。
あぁ、しかしこの街にそんなものはないみたいだ。
そして交通量が異常すぎて、歩くだけでとても疲れる。
数秒ごとに、リクシャーワーラーがしつこく声を掛けてくる。
諦めて、トラベルオフィスで待機をする事にした。
この後も必要なものを買いに何度か嫌々街へ出たのだけど、私はこの「バラナシ駅前」という街がどうやら嫌いの様だ。
クレイジーな街を歩いて疲れてしまったのか、風邪を引いたような気分になる。
鼻水は出るし、身体は火照ってなんだかダルイ。たまに咳も出る。
13時過ぎに電光掲示板を見に行ってみると、私の列車は16時発に変更されていた。
そして、絶対まだだろうなと思いつつも16時前に確認しに行くと、案の定さらに遅れていた。
出発予定は20時。
ここで待つのは構わない。
嫌だけど…それが「インド」という国ならば受け入れざるを得ない。
だけど、到着が夜になるのだけは避けたい。
それならいっその事、もっと遅れて朝着になってくれた方がいい。
しかし、これくらいの距離だったらバスにすればよかった。
次からはそうしよう。
2階の食堂で、遅めの昼食を食べる。
新しい挑戦をする気分にもなれず、無難にエッグカレーとチャパティを注文。
42ルピー(76円)。
19時30分頃、電光掲示板の「20時発」の表示は変わらない。
ついに来たか!
私は、荷物を持ってホームへ向かう。
……。
この混雑の中から、自分の車両を探すのはかなり難易度が高い。
なんとかホームまで降り、身近なインド人に私の車両の到着場所を尋ねてみた。
すると、「その列車はここじゃないよ」と言われる。
そんなはずはない!電光掲示板には、「プラットホームNo.8」って書いてあった!
だけど違うと言い張るし…。
電光掲示板のあるところまで戻り、インフォメーションカウンターに聞いてみる。
すると、「その列車は21時半発に変更になった」と。
あぁ、もう「絶対に来るはずのない便り」を待っている気分だ。
この列車、「待ち続けていれば来る」とももう思わない。
もはや、来たら逆にびっくりだよ。
ツーリスト用の待合室も、20時に追い出された。
固いベンチに座る。
インド人に囲まれながら、じっと時を待つ。
この時、この旅で初めて「日本に帰りたい」と思った。
せめて隣に誰かがいれば、「一体いつ来るんだろうね」と苦笑いでもしながら過ごせるのに。
こんなところで一人、来るのかどうかもわからない列車を何時間も待ち続けるなんて。
…心細すぎる。
もうこんな過酷なことには耐えられない、日本に帰りたい。
私には無理だったんだ。
「女一人でインド旅行」なんて。
私にはそんなスキルも、メンタルも備わっていなかった。
…日本に帰りたい。
そんな風に殻に閉じこもっていたら、外国人男性に声をかけられる。
「もうすぐ21時半だよ!」
そう、彼は私が出会った唯一の「同じ列車を待つ外国人」。
21時半に変更されたとき、その案内を偶然一緒に聞いていたのだ。
インド人ばかりの中、他にも私と同じ外国人客がいるというのは大変心強い。
…なのだけど、私は彼とコミュニケーションを取る事ができなかった。
(私の語学力の問題で)
せっかく会えた外国人仲間だったのに。その事も、私が今しがた塞ぎ込んでいた要因の一つかもしれない。
しかし彼は、めげずに私に声を掛けに来てくれた。
一緒に、ホームを目指す。
彼がホームにいたインド人に尋ねてくれる。
すると、「その列車は23時半発に変更された」と。
さらに、「23時半にも来ないんじゃないかと思う。明日の始発は午前7時だ」と。
あぁ、もう。。。
私は、これ以上はもう待てない。
ブッダガヤ行きは諦めて、今日はホテルを探そう。
外は既に夜の色を見せているというのに、相変わらず凄い交通量と客引きの量。
暗い中、泥なのかう〇こなのかよくわからないものを何度か踏む。
精神的に限界が来ている私は、リクシャーワーラーに八つ当たりをする。
「リクシャー?リクシャー?」
「ノー!(怒)」
「どこ行くのー??」
「ノー!!!!!(怒)」
「メイアイヘルプユー???」
「あぁ、もう!!!
…煩いっ!!!!!!!(日本語で)」
1時間ほど歩き回って宿を4件訪ねるも、全て満室。
これ以上この煩わしい駅前の夜を歩き続けるよりは、駅でインド人たちと一緒にベンチ泊でもした方がマシだ。
しかし夜を明かした後、私は一体どうすればいいのだろう。
朝に列車が来ればいいけど、もうそんな事は期待したくない。
諦めて違う行先の列車を予約し直す?
いや、その列車だって、永遠に来ないんじゃないの。
バスを乗り継いで、とりあえずどこかに行くか。
この広大なインド大陸を?オールバス移動??
あぁ、私はこのまま永遠にバラナシから抜け出せないんじゃないだろうか。
バラナシに取り込まれたまま、ガンジス川にその身を捧げる運命なのか。
とりあえず、バラナシから脱出したい。。。
不安しかない足取りで、駅に舞い戻る。
駅の電光掲示板の表示は、まだ21時半発のまま変わっていない。
もう22時半を過ぎているというのに。
インフォメーションカウンターで、ダメ元で尋ねてみる。
すると、カウンターのスタッフと現地語で会話を交わした警備員が、「ついてこい」と私を誘導する。
お!?
ライフルを持ったその警備員は、私を連れてホームへ行く。
おぉ!??
すると、ホームに列車が停車していた。
警備員は、私に車両番号と席番号を訪ねる。
おぉーーーーー!
私が外出している間に、なんと列車が来ていた。
ホテルが全て満室で、逆によかった。
警備員は、私の座席のところまで付き添ってくれた。
そこには、既にインド人が横になっていた。
警備員が「どけろどけろ」と何度も催促してくれて、私の空間が確保された。
あのインド人は恐らく、自由席の乗客か、もしくはチケットすらない無賃乗車の乗客だ。
そういう人が空いている指定席を勝手に使うという事が、インドでは「普通の事」の様だ。
ゴーラクプルからバラナシに来た時は2段席の上段だったのだけど、今回は3段席の最下段。
なかなか衝撃的な光景なのだけど、うまく写真を撮れずに残念。
3段席は私の座高よりも低いから、横になるしか選択肢はない。
窓の外を眺める。
最下段は治安も心配だし、席を外した瞬間に居場所を奪われるリスクもある。
周りは全員、インド人男性。
異色の私は、彼らの視線を一身に集めている。
だけど、こうして窓の外を眺められるのは、最下段のみの特権。
「何時に出発するのかな」と考える。
だけど「そんな事はどうでもいいや」と思い直す。
私はようやく列車に乗った。
この列車は、何時だろうと「いずれは出発」をする。
23時。列車がゆっくりと動き出す。
23時半じゃなかったのか…。
「ここまで待って間一髪で乗れない」という悲劇に遭わなくてよかった。
朝に宿を出てから、15時間。
午前10時発の予定だった列車は、13時間遅れの23時にようやく出発をした。
私は今、ようやくバラナシという街から脱出をする。
前言撤回。
私はまだ、日本には帰らない。
今はまだ理解不能なこの国を、何としてでも旅してやる。