-Jaisalmer to Bhuj-
夜中に、突然の爆音で目覚める。
遠くで、花火が打ちあがる音がする。
人々の歓声も聞こえる。
時計を見ると、時刻は0時。
あぁ、いま私はニューイヤーを迎えたのだ。
そして砂漠の向こう側の見知らぬ彼等は、この時間の到来をずっと待っていたのだ。
私たちが爆睡している間に、どんな過ごし方をしていたのだろうか。
アメリカ人とオランダ人のカップルと目が合う。
彼等も爆音で起こされた様だ。
小声で「ハッピーニューイヤー」と声を掛け合う。
デニスは…この爆音の中でも寝ている。
せっかくなので起こしてみるものの…興味がないのか、布団の中で丸まったまま出てこない。
遠くの歓声は相変わらず続くのだけど、私もカップルも、再び眠りの世界に戻っていく。
インドの砂漠で迎える新年
早朝、今度は少年たちに起こされる。
「グッドモーニング!」
あぁ、ご来光を見る為に起こしてくれたのか。
午前7時より少し前。
遠くの方が、ぼんやりと明るくなり始めている。
再びデニスを起こしてみる。
「ハッピーニューイヤー!朝だよー!日の出を見に行こう!」
だけど寒さに弱いデニスは、布団から顔以上の部分を出そうとしない。
え~、何のためにこの日を選んで砂漠に来たのさー。笑
そんなデニスは放って、私は一人で砂丘を目指す。
一つ砂丘を越えると、遠くから多くの「日本語」が聞こえてくる。
昨日派手に騒いでいたのは、彼等だったのかな。
10人近くはいそうだ…こんなに多くの日本人が同じ砂漠にいたなんて不思議。
朝日は、どうやらこの砂漠を越えた方角から昇ってきそうな雰囲気。
どうせなら地平線の向こう側から昇ってくる姿がみたいと思い、砂漠を越えてみる事にした。
日本人たちの前を横切るときに、「おはようございます」と声を掛けられる。
私も、「おはようございます」とあっさり返してみたのだけど、内心では驚いていた。
何で私が日本人だってわかったんだろうか…??
砂漠を越えた向こう側は、だだっ広い荒野だった。
なんかイメージしていた「砂漠で迎える新年」とは異なるんだけど。
まぁいいか。
誰もいない広大な荒野の隅でひとり、今年最初の太陽の到来を待つ。
いつもと違う新年、いつもと違う元旦。
今年は初詣の長蛇の列に並ぶこともないし、おみくじを開いてガッカリする事もない。
そして明日からは、あの正月独特のゆる~い雰囲気に身を委ねる日々を過ごすこともなく、ただ「旅行者」としていつもと変わらぬ旅の日常を過ごすだけなのだ。
「新年」を意識するのは、今この瞬間だけ。
しっかりと、かみしめよう。
昨日反対側に消えていった太陽が、一周回ってこちら側に戻って来た。
地球は自転をしているのだと、こんなにも実感させられたのは初めてかもしれない。
どんどんと、陽が昇ってくる。
まさかインドの西の果ての荒野で、ひとりでご来光を見る事になるなんて。
日本を飛び出して3ヵ月。
もっとずっと長くこの土地にいるような感覚なのだけど。
まだわずか3ヵ月。
もし日本にいれば、あっという間に過ぎていたであろう3ヵ月。
私の「ご来光の瞬間」が終ってからしばらくして、後方から歓声が聞こえてくる。
あぁ、彼らのご来光は「今」訪れたのだ。
同じ土地にいるのに、その瞬間には時差がある。
日本にいる友人知人たちは、もう3時間以上も前にこの瞬間を迎えていて、
そしてヨーロッパにいる友人知人たちは、まだ深い眠りの中にいる。
私ももう一度、今度は砂漠の向こう側からのご来光を見ようと来た道を戻る。
あぁ、もしかしたらこちらの方が美しかったのではないだろうかと思った気持ちに蓋をする。
辺りが完全に明るくなった頃、デニスがチャイを持ってやってきた。
もうそんなに寒くないから…爽やかな朝の表情をしている。
彼はこんな感じで満足できたのだろうか…。
そして私のカメラのバッテリーは、ここで尽きる。
ご来光までは持ちこたえてくれて、本当によかった。
今日もデニスは、朝ご飯のダルを一切食べない。
仕方がないので、今日も私は半分だけそれを食べる。
アメリカ人とオランダ人のカップルは、2人で1プレートを完食していた。
デニスが私のストールでターバンを巻いてくれた。
だけどすぐに、少年に直されてしまった。笑
昨日とは違うデザインだったので、ボーイフレンドのモリヤと一緒に写真を撮ろうと思い彼に近づく。
iPhoneのインカメラを彼に向けた途端、突然彼に押し倒される。
砂漠の砂の上にうつ伏せになった私に、更に容赦なく襲い掛かるモリヤ。
私の腕に、激しく噛みついてくる。
「痛い、痛い、痛い!!!!!!」
少年たちが、私からモリヤを引き離してくれた。
「何で突然怒り出すのか!もうあなたは私のボーイフレンドなんかじゃない!」
だけど私は、この後もモリヤに乗って移動する必要がある。
英語が話せないはずの少年は、「ボーイフレンド」と言う単語は知っている様で。
嬉しそうに、「モリヤ~♪ボーイフレンド~♪」と可愛い笑顔を私に向けてくる。
私は「もう彼は私のボーイフレンドではない」と、拗ねた様子を見せてみる。
噛まれた腕は痛いのだけど…少年が可愛すぎて癒される。
歩き始めて数十分後、村に到着する。
ここでキャメルサファリは終了。
バイバイ、モリヤ。
そして少年たちとも、ここでお別れ。
デニスがさらっと、「2人でシェアしてね」と500ルピー(900円)を渡していた。
あぁ、そんなにさらっと…。
こういう時は、チップを渡すんだね。
タイミングを逃してしまった私は、ここで一つ学びを得た。
ジープに乗り込む。
私は鞄に入っていた飲みかけのコーラと未開封のコーラを出して、未開封の方をデニスに渡す。
元々は、どちらも彼が購入したものだ。
ジープに座る私の傍に、少女たちが近寄って来た。
ペンかお金が欲しいという。
デニスが「これを渡してあげて」とコーラを私に返す。
私はそれを受け取って、少女の一人に渡す。
初日にこの村を訪れた時、デニスは少女に硬貨を渡していた。
彼は「貧しい者に与える人間」の様だ。
過剰に渡したり、全ての人に施したりはしないけれど。
こういう風に、タイミングが良い時にさらっと与える。
そういう接し方の人間もいるのだという事を、知れてよかった。
私は…今後どうしていくべきかな。
ジープの中で爆睡。
いつの間にか、ジャイサルメールに戻って来ていた。
4人でBさんのゲストハウスを目指す。
時刻は12:00。
私は、14:15の「ブージ」行きのバスに乗る予定。
2時間以内に、シャワーを浴びて荷造りをして、それからリクシャーに乗ってバス乗り場を目指さなければいけない。
あぁ、忙しい…。
ツアー最終日に移動の予定なんて立てるんじゃなかった。
そして慌ただしく、私はこの城を去る。
ジャイサルメールから、次の町「ブージ」へ
城の外で待機していたリクシャーワーラーが、大きな荷物を背負った私に群がる。
彼等は一様に「100ルピー(180円)」と言う。
「高すぎる」と言って離れると「いくらがいいのか」と聞かれる。
私は「50ルピー(90円)」と答える。
「80ルピー!」「70ルピー!」と徐々に値下がっていくのを無視して、少し離れたところに座っていたリクシャーワーラーに聞いてみる。
彼が「50ルピー(90円)」と答えたので、彼に任せる事にした。
ブージ行きのバス乗り場「Air Force Circle」に無事に到着。
そこに止まっていたバスに「ブージ行きか」と尋ねるも、英語がわからない様だ。
チケットを見せるものの…それでもわからない様子。
何でだ…乗務員なのに。
他の人が助けてくれて、どうやらこのバスで合っているらしい事が判明。
ブージの到着時間を尋ねたら、あの人に聞いてという素振りで近くの屋台の男性を指さす。
ちょっと…不安すぎるんですけど。
屋台の男性に聞いたら、彼がバスの乗務員に現地語で聞いてくれて、どうやら明日の朝5:00に到着するらしいことがわかった。
朝5:00か。
いつもの通り少し遅れて、7:00くらいに到着してくれたら丁度いいかな。
バスは順調に、ブージを目指す。
パキスタンとの国境から、着かず離れずの距離を保ちながら南下する。
先ほどまで砂漠で見ていたような、荒野の光景を眺める。
私は少しだけ、寂しさを感じる。
たった2泊3日だったけれど、とても楽しかったな。
ヒマラヤといい砂漠といい、私は自然の中で過ごすのがとても好きみたいだ。
今回もしばらくシャワーを浴びれなくて、そして夜はとても寒くて。
トイレは青空トイレだし、寝床は野宿だし。
だけど楽しかった砂漠の旅。
そしてジャイサルメールという町も、とても美しくて過ごしやすいところだった。
この旅の「町の美しさ部門」で言えば、現時点ではジャイサルメールが一番だ。
あぁ、名残惜しいな。寂しいな。
そして私はいつの間にか、また一人ぼっちだ。
一人旅は自由で気ままで、とてもワクワクするもので。
だけどいつも心のどこかに「孤独」を抱えている。
自ら望んで得た環境なのに。とても不思議なのだけど。
夜のバス車内は、やはりとても寒い。
砂漠の夜を思い出しながら、今日も私は凍える夜を過ごす。
今日は元旦。
そんな事は既に忘れて、私は異国のバスの中。