ムンバイ -Mumbai-
朝6時過ぎ、乗務員が私に声を掛けに来た。
そろそろ希望したCST駅付近に着くらしい。
2段席の上から下に下りて待機をする。
もう、このバス車内に他の乗客は一人も乗っていない。
今このバスは、私の為だけに走っているのだ。
CST駅付近で降ろされる。
「駅はあっちだよ」と言い残し、バスは颯爽と去っていった。
どこの町でも、そしてそれが何時だろうとも、バスを降りれば必ずリクシャーワーラーが詰め寄ってくる。
だけどこの町では、誰も私に声を掛けて来ない。
ここが大都市ムンバイだからなのか、それとも降りた場所がイレギュラーだったからなのか。
もくじ
大都市ムンバイで、宿を探して彷徨う
宿の目途は全く立っていない。
ここムンバイには「安宿」なんかなくて、金額に対してのクオリティが低いのだとか。
事前にWEBで調べたら、予算内で泊れそうな宿は全て遠い郊外にあった。
だから、まずは宿を求めて途方に暮れなければならない。
目ぼしの宿が1件
だけど、一応「ここに行ってみようかな」と思う宿が1件だけあった。
「人気だから予約をする方がよい」という情報があり、そして予約サイトで見たら満室だったから、期待はしていないのだけど。
まだ薄暗いムンバイの町を歩く。
高層ビルが立ち並んでいる。
「ここは本当にインドなのか?」と思いながら歩く。
路上に敷いたシートの上で寝ている親子を見て、「やはりここはインドなのだ」と思い直す。
目的の宿に着いた。
予想通り満室で、あっさりと断念。
さて、どうしようか…。
周りにあるのは、綺麗な「ホテル」ばかり。
適当に歩いていて、見つかるものなのかな。
インド門周辺に安宿が3件
ガイドブックを再度読み直し、ここから1時間ほど南へ下った「インド門周辺」の地域の宿を3件ピックアップする。
その内の1件は、シングルルームが2500ルピー(4500円)もする。
それでも、ここムンバイでは安い部類に入るのだ。
南へ向かって歩き出す。
まだ陽が出る前だというのに、汗をかくほどに暑い。
「あぁ、私は南国に来たのだ」と思わせられる。
インドでこんなに暑さを感じるのは初めて。
他の地域も日中は暑かったけれど、乾燥していたから過ごしやすかった。
この街では、大きなバックパックを担いだ私に声を掛けてくる人がいない。
やはり大都市と田舎は違うのだ。
この街で私は、途方に暮れてしまうんじゃないかと不安になる。
だけどたまに「おはようございます」と声を掛けてくれる人に出会うと、ほっとする。
大都市だけれど…でもここは「インド」。
怪しい客引きについて行ってみたり
高層ビル群を抜けて、雑多なエリアに差し掛かる。
すると、汚い身なりの男が声を掛けて来た。
「安いゲストハウス探してるの?ここは700ルピー(1260円)だよ!」
あんまり信用したくない雰囲気の男だったのだけど、見るだけタダかと思いついて行ってみる。
男は廃屋の様な階段を、どんどんと上っていく。
あぁ多分ここには泊まらないなと思いながら、付いて行く。
急な階段を4フロア分上った頃に後悔。
「見るだけタダか」という軽い気持ちで上るには、辛すぎる…。
寝起きの朝に無理して重い荷物を背負っている軟弱な私には。
たぶん5階くらいの場所に、そのゲストハウスはあった。
階段の状態とは打って変わって、中は改装されていて綺麗。
ここなら泊ってもいいかも!
だけど、あっさり「満室」と言われる。
それに、この男に対するフロントマンの態度を見て、あぁやはり信用すべき男ではないのだなと判断。
他のゲストハウスも斡旋しようとしつこいのだけど、強引に男と別れる事にした。
1時間ほど歩いて、「インド門周辺」に着いた。
1件目の宿がこの辺りなのだけど…見当たらない。
諦めて2件目を見に行こうとすると、また別の男が声を掛けて来た。
無視無視。
…だけど「たった500ルピー(900円)」だよと言う甘い言葉に釣られて、またもやホイホイ付いて行く事になった。
また階段を4階まで上がる。辛い…(再)。
そこは、山小屋の部屋の様な簡素な部屋がいくつか並んでいるところだった。
スタッフも感じがよいし、清潔感もあるのでここにしようと思ったのだけど。(安いし!)
「ホットシャワーがない」と言うのでやめた。
またもや他のゲストハウスも斡旋しようとされるのだけど、ここでも強引に別れる。
だって1件目の候補として探していた宿が、なんとこのビルの1つ上の階だったから。
この男にマージン取られたらもったいないし。
このビルに辿り着けたのは、彼のおかげなのだけど。
ムンバイのお勧めの安宿「Sea Shore」
下の階の宿と間取りは同じなのだけど、こちらの方が部屋の壁がしっかりとした造り。
そしてホットシャワー24時間OKとの事。
値段は700ルピー(1260円)。
今までよりは高いのだけど、ここムンバイの物価で考えたら相当安い。
部屋は狭くてシンプルなのだけど、とても清潔。
久々に、寝袋も自前の枕カバーも敷かずにそのまま寝ても良いと思えるベッド。
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廊下もまるでホテルの様。
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シャワールームは共用なのだけど、全く気にならないと思えるほどに清潔。
トイレにはトイレットペーパーまで付いていて、なんと便器に流して問題ないと言う。
難点は、WiFiがロビーから遠い部屋だと届かないという事と、5階(インドで言うところの4階)にあるので疲れるという事くらい。
物価の高いムンバイでこのクオリティの宿に700ルピー(1260円)で泊まれるなら大満足だ。
設備面で言えば、インドで滞在したゲストハウスの中で最も快適な宿かもしれない。
(アーメダバードで泊まった中級ホテルは例外として)
滞在期間中にわかった事だけれど、常に誰かしらがどこかしらを掃除している。
それでこの清潔感を保てているわけだ。意識高いっ!
夜行バスでの移動と、ここまでの徒歩移動で汚れた身体をシャワーで流す。
さっぱりした気持ちで、周辺の散策に出かける。
ムンバイを散策|インドの光と闇
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ここはインド??
きちんと守られている信号機がある。
今までは、信号機はあっても意味をなしていなかった。
そしてこのエリアは、渋滞を避ける為にリクシャーが入ってこれない。
その代わりに、今まではほとんど見なかった「タクシー」が走っている。
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信号機がきちんと交通整理をしてくれているから、とても歩きやすい。
何だこのカッコいい建物は。
スターバックスがある。
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ブランドショップもある。
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どうやら、これが噂の「タージ・マハル・ホテル」だった様だ。
タージ・マハル・ホテル -Taj Mahal Hotel-
(正式名称:タージ・マハル・パレス)
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19世紀末の事。
ムンバイ一の資本家だった「ターター」という人が、外国人の友人とホテルへ夕食にでかけた。
だけど「ヨーロッパ人専用ホテルだ」と言って入場を拒否されたのだとか。
(なんて高飛車なホテルなんだろう….)
その出来事をきっかけに、「インドの入り口であるムンバイに、世界に通用するホテルの必要性」を感じたターター。
何度もヨーロッパに足を運んで設備を調達し、このタージ・マハル・ホテルを完成させた。
シンガポールの「ラッフルズ・ホテル」と並ぶ「アジアの星」なんだって。
凄いな~。
私だったら、ただただ悲しくなって終わりだよ。
これが、凡人と成功者の違いか。
インド門 -Gateway of India-
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タージ・マハル・ホテルの傍には「インド門」。
ここから、ムンバイ一の観光名所「エレファンタ島」までのフェリーが出ている。
そこには、素晴らしい「石窟寺院」があり、世界遺産にも登録されているのだとか。
だけど「石窟寺院」はエローラとアジャンターで散々見てお腹いっぱいなので、エレファンタ島には行かない予定。
いくら「ムンバイ一の観光名所」で「世界遺産」だとしても。
少しもったいないかな?
インド門もタージ・マハル・ホテルも、海沿いにある。
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そういえば、海なんて見るのはいつ以来だろう。
ネパールは内陸国だし、インドでもずっと内陸にいたから、この旅では初めてだ。
ムンバイの巨大スーパーマーケット|サハカーリー・バーンダール
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必要物資を調達しに、大きめのマーケットを目指す。
え!これがマーケットですか!とう外観のお店。
だけど私が探し求めている「コンパクトミラー」が、こんなに大きなお店にも売っていない。
この旅で私は、日本から持参した鏡を2枚も割ってしまった。(縁起悪い!)
更に、インドで買った折りたためないタイプの小さな鏡を1枚割った。
そしてインドで私は、「折りたためるタイプの鏡」を一度も見かけていない。
仕方がないので、枯渇していたスキンケア用品の補充だけして店を出る。
チャーチゲート駅を目指す
徒歩圏内では行けそうにないスポットに行くため、駅を目指す。
駅って、緊張する。
きちんと切符を買ってホームを見つけられるか心配。
だけど公共交通機関を乗りこなせなければ、都会で旅はできない。
駅に行くまでの道のりが素敵過ぎて驚く。
これは「時計塔」だって。
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そしてこれらは、何かわからないけど素敵な建物。
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ムンバイのローカル列車
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チャーチゲート駅に着いた。
大きすぎるよ…!
とりあえず、窓口らしきところに並んでみる。
適当に選んだその窓口は、「レディーとハンディキャップ専用」の窓口だった。
行先を言ってみたら、「ファイブ!」と言われる。
え?ファイブ??
「5ルピー(9円)」って事??
それともハンドレットを省略して「500ルピー(900円)」?
たった5駅で500ルピー(900円)は高すぎると思うので、
「そんなに安いわけないじゃん」
と嘲笑されるのを覚悟しながら、恐る恐る5ルピー(9円)コインを差し出す。
すると、ポーンと切符を投げ返された。
5ルピーだった。
5ルピーって…。
そして人に尋ねながら、あっさりと列車を見つけて乗り込む。
開けっ放しのドア沿いに立ち、風邪に吹かれながら景色を楽しむ。
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Mahalaxmiという駅で降りる。
目的地は、そこからすぐの場所にある「ドービー・ガート」というところ。
ドービー・ガート -Dhobi Ghat-
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ムンバイ最大の洗濯場。
機械化が進んだ現代社会においても、こうして手作業の洗濯場が現役で活躍をしている。
語学学校で教わった事を思い出す。
インドでは「新しい機械を購入する」よりも「人を雇う」方が安いから、効率が悪くても人を使う事が多いのだとか。
ガイドブックでは、洗濯場まで降りずに上から眺める事を推奨されていた。
法外なチップを要求される場合があるからとか。
私も大人しく、忠告に従う。
雑多な様に見えて、よく見ればきちんと種類毎や色毎に分けられている。
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みんな一生懸命働いている。
旅行者に構って「チップ寄越せ」なんて言っている暇はなさそうに見えるけどな。
ここからまた更に、40分ほど歩く。
「ハッジ・アリー廟」というところに着く。
ハッジ・アリー廟 -Haji Ali’s Dargah-
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長い通路を歩いた先にある。
これが綺麗な水の上に浮かぶものだったら、とても美しい場所になるんだろうな。
私の目的はあの場所ではないのだけど、せっかく来たので通路を歩いてみる。
左側は、土産物屋がずらりと立ち並ぶ「活気のある」サイド。
物を買って欲しい店員の、元気な呼び声が止むことなく聞こえてくる。
右側は、腕や足や目を失った物乞いがずらりと座る「淀んだ」サイド。
寄付が欲しい彼らの、元気のない腕が何本も伸びている。
左側で多くの観光客が立ち止まり、右側で僅かな観光客が立ち止まり、この狭い通路は大渋滞を起こしている。
私は、そのどちらも見ない様にしながら、前を見据えて真っすぐと歩く。
左半身に「インドの光」を、右半身に「インドの闇」を、ひしひしと感じながら。
辿り着いた場所にはハッジ・アーリ廟があり、その奥には海があった。
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私はそのどちらにも立ち寄らず、すぐに踵を返して来た道を戻る。
どうもここは、居心地が悪い。
左右逆になった光と闇を再び感じながら、通路の根元まで帰る。
これが「ムンバイ」という町。
芸能、芸術、ビジネス…これらを求めて、インド中から人が集まる町。
そして、そんな光輝く人々からの喜愛を求めて、闇の世界に生きる人々が集まる町。
インドでこんなに「富」を感じたのも初めてならば、こんなに「貧」を感じたのも初めて。
「富」と「貧」が入り混じる町、それがムンバイ。
おススメのジュース屋さん
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私がここに来た目的は、このジュース屋さん。
キャメルサファリ仲間のデニスがお勧めしてくれたお店。
(彼は「ラッシー屋さん」と言っていた)
これの為に、遥々40分も歩く事になったのだけど。
だけど「お勧めされたものは出来る限り試す主義」なので、遠くたって私は歩くのだ。
メニューを見てもよくわからなかったので、店員さんに相談。
「ミックスジュース」がお勧めだと言うのでそれにした。
(ラッシーじゃないのか…笑)
250ルピー(450円)もする、日本の物価と比較しても高いと思う飲み物。
美味しかったけど。
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みんな外で立ちながら飲んでいるのだけど、室内にテーブル席もある。
覗いてみたら「入っていいよ」と言われたので、入って座ってみる。
だけど申し訳ないから、食べ物も注文。
普通のサンドイッチを注文したら、「こっちの方がお勧めだよ」と上手に誘導されたので乗ってみる。
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ラッシーと合わせて370ルピー(666円)。
再び電車に乗ろうと駅まで40分ほど歩く。
そしてまた「レディー、ハンディキャップ専用」窓口に並ぶ。
普通に男性も並んでるんだけど…。
いいのかな?と思っていたら、窓口で追い返されていた。
せっかく並んだのにね。笑
さっきより1駅分短くなったのだけど、それでも運賃は5ルピー(9円)と変わらない。
初乗り運賃なのかな。
ムンバイセントラル駅。
名前の通り、少し大きい駅。
ホームまでの道が度々分岐しているので、人に尋ねながら目指す。
ムンバイでは、歩いているだけで「こっちだよ」と声を掛けてくる様な人はほぼいない。
だけどこちらから尋ねれば、きちんと親切に教えてくれる。そんな都市。
ムンバイで見る「スラムドッグ・ミリオネア」
宿に帰って、「スラムドッグ・ミリオネア」という映画を見る。
日本の動画サイトは海外からは視聴できないみたい。
(お金払ってるのに!)
仕方なく、「英語×ヒンディー語の音声」に「英語の字幕」で見る。
そうまでして「今」見たいと思うのは、この映画の舞台がここ「ムンバイ」だから。
そして、ここムンバイにある「アジア最大のスラム街」に行く予定だから。
大雑把に言うと、「インドのスラム街に住む少年が、大人になってTⅤ番組によって大金を手にする」という話。
日本でも以前に流行っていたね…「クイズ・ミリオネア」。
みのもんたさんの。
だけど「大金を手にする」がメインの話ではなくて、大人になった彼が回想する「成長物語」がメイン。
「インドの見え方」が、またちょっと変わってくる。
日本に帰ったら、日本語字幕付きので見直そう。
暴力的なシーンもあるから、気後れしてしまうけど。