ダフラ・オアシス(エジプト)-Dakhla Oasis-
あさ目が覚めると、宿の従業員(弟)の叫び声が聞こえた。
昨日も夜中まで騒いでいたのに、なんて早起きなんだろうか。
▼前回のお話し▼
白砂漠を見て、次の町ダフラ・オアシスへ ~ダフラの泊まってはいけない宿~
ダフラ・オアシス初日|クレイジーな朝
この宿は朝食付きという事なので、朝8時にオーナー(兄)が部屋に呼びに来る事になっていた。
朝8時、予定通り兄が来る。
そして、真剣な表情でこう伝えてくる。
「いい?弟が何を言ってきても、絶対に耳を傾けないでね。反応は一切せずに、速やかに通り過ぎるんだ。わかった?」
う、うん。わかった。
そして兄の忠告通り、私は周りを見ない様に真っすぐとロビーを駆け抜ける。
途中で誰かに声をかけられて肩を叩かれたのだけど、無視をして前に進む。
すると兄が「彼は僕の父だよ」と教えてくれる。
あ、父だったか。
父のこと無視しちゃったよ。
挨拶をしようと振り返ると、父が物凄い形相で迫って来た。
え!なにっ!?
父は私にジャパニーズか?と聞き、そして言った。
「今すぐこの宿から出ていけ!」
え!何で!?
話を聞いてみると、彼の2人の息子たちは、旅行者に対してトラブルを起こすという事だ。
危険だから、今すぐ出ていけと。
え、弟が危険とは聞いていたけど、兄も危険なの??
私を朝食へ連れていくためにバイクの準備をしている兄は、「いいからおいで」と手招きをしている。
半信半疑で聞いてみる。
「彼(兄)も危険なの?」
すると弟が割り込んできて「危険だ!危険だ!」と騒ぐ。
そんな弟に「お前は黙ってろ!」みたいな感じでアラビア語で恫喝した父は、「どっちも(兄も弟も)危険だ!今すぐ宿を変更しろ!」と。
兄も戻って来て、3人が3人とも、思い思いの言葉を私に投げかける。
もう、何が何だかわからない。
というかさ、血のつながった家族なのに何なんだよ一体…。
弟は「ツーリストオフィスに行こう!」とか言ってくる。
何でだよ。
別に用事ないよ、ツーリストオフィスには。
というかオフィスに行ったところで、「危険」なのはあなたでしょう?
なぜあなたが勧めてくるの?
「今すぐ出ていけ」と怒鳴る父。
「ツーリストオフィスに行こう」と何故か騒ぐ弟。
「大丈夫だから、朝食に行こう」と冷静な兄。
兄が一番冷静で、信用できそうなんだけどな。
だけど、ここに居てはいけないんだという事は、凄くよくわかった。
最終的には兄も「あなたが決めていいけど、これで混乱してしまったなら出ていった方がいいね」と言う。
あぁ、兄はやっぱりいい人そうだ。
ツーリストオフィスに行こうと煩い弟を振り切って、荷物をまとめに部屋に戻る。
兄は、「迷惑をかけてごめんね、もし嫌じゃなければお詫びに無料で観光に連れていくよ」と言う。
もちろん、丁重にお断り。
もうこの宿の誰も、信用してはいけないみたいだから。
兄に「代わりの宿まで連れていってあげるよ」と言われる。
「私はフォルサンに行くから大丈夫」と答える。
「フォルサンは満室だよ」としつこい兄。
だけど、フォルサンのスタッフは昨夜「今夜(昨夜)は満室だけど明日(今日)は空いている」と言っていた。
とりあえず、一人でフォルサンに行ってみよう。
外に出ると、弟が何故か警察を呼んでいた。
何故??
弟が何か叫んでくるのを無視して、たまたま来たタクシーに乗り込む。
普段はタクシーを使わない派の私も、この時ばかりは迷わずタクシーに乗り込む。
弟が叫びながら、こっちに向かって来る。
タクシー運転手は、行っていいの?みたいな表情で私を見る。
「大丈夫だから、行ってください!」と言い終わるやいなや、弟がタクシーのドアを開ける。
間に合わなかった…。
弟が「警察が、あなたと話したいと言っている!」と言う。
私は別に、話す事など何もないのだけど…?
無視をしてタクシーを出してもらおうかと思ったら、警察官がこちらへ歩いてくるのが見えた。
これは…もう無視はできない。
警察官はタクシーをのぞき込み、「何か問題がありましたか?」と聞いてきた。
クールで、しゅっとしたイケメン警察官。
かっこいいなぁ。(←こんな時に何考えてるんだ!)
そして私は、拙い英語力で状況を説明。
「ここの宿のオーナーに、宿を変更しろと言われました。なぜなら、彼の息子たちが危険だからという事です。今から、別の宿に行きます。」
警察官は、タクシー運転手と何やらアラビア語で会話を交わして、パトカーに戻っていった。
タクシーも、ようやく出発。
…と思ったのだけど、何故かタクシーはパトカーに続いて走る。
なぜ??
たまたま方向が一緒なの??
「ここがフォルサンだよ!」と言って、タクシーが止まる。
パトカーも止まっている。
そしてイケメン警察官がタクシー運転手にお金を払い、私に降りる様に促す。
あ、何故かタクシー代がタダになった。
そしてイケメン警察官の誘導の元、宿に入る。
イケメン警察官は2人組だった。(←どうでもいい)
イケメン警察官たちは、宿のスタッフとアラビア語で会話を交わし、そして何故かスタッフにお金を渡して宿を出ていった。
なんだったんだ…。
ダフラの快適宿|フォルサン(El Forsan Hotel)
ここからは、普通のいつもの流れ。
部屋は空いているかと聞いて、値段を聞く。
Wi-Fiが使えるか、ホットシャワーが使えるかも確認する。
部屋は最も安いキャビンが75ポンド(約525円)だけど、今は前の客がまだいるから少し待ってほしいと言われる。
ロビーとテラスどちらがいいか聞かれて、テラスで待たせてもらう。
少年スタッフがテーブルクロスを引いてくれて、ウェルカムドリンクの紅茶を出してくれた。
ふぅ…朝から騒がしかったけど、なんだか急にのどかな空間になった。
テラスでくつろいでいたら、エジプト人の女の子たちが群がって来た。
アジア人の私が珍しい様で、しきりに写真をせがまれる。
1人と撮ると、モジモジしていた他の女の子たちも寄ってくる。
それをスタッフの男性がニコニコしながら見ている。
「あなたは、ここでは有名人だね♪」
うん、本当に、私って芸能人だったっけ?と勘違いしてしまうよ。
女の子との撮影が終わってしばらく経った頃、今度は男の子たちが群がって来た。
なんだろう、こんなにたくさんのエジプト人たち。
高校の修学旅行か何かかな??
「あなたは有名人だね♪」と再び話しかけて来たスタッフに、「アジア人は珍しいの?」と聞いてみた。
アジア人は、中国人がたま~に泊る程度で、日本人はほぼいないんだって。
日本のガイドブックに載っている宿なのに日本人がいないって事は、この町自体にほぼ日本人は訪問しないって事かな。
スタッフが、「待たせてしまってごめんね」と、無料で朝食を出してくれた。
いやいや、こんな朝っぱらから泊めて欲しいって押しかけてるのはこっちなんだからさ。
(しかも警察と一緒に。笑)
どんなに待たされたって、別に構わないのに。
何ていい宿なんだろう。
昨夜のクレイジー宿とは大違い。
「ダフラではどこへ行くのか」と聞かれたから、特に決めてはいなかったけど「カスルとバシェンティー村かな?」と答える。
そうしたら、「部屋を準備するのに時間がかかるから、先に観光に行っておいで」と言われる。
「早く行かないと、安いバスがなくなる。高いタクシーになるよ」って。
「その前に、シャワーを浴びたり何か必要な事はあるか」と聞かれたので、「洗濯をしたい」と答える。
そうしたら何と、まだルームクリーニング前の空き部屋を使わせてくれた。
屋上で、洗濯物も干していいって。
至れり尽くせり!
迷路都市「カスル」でお散歩
準備が終って、外に出る。
「カスル行きのバスは、ポリスステーションの近くから出ているよ!」という事だったので、ポリスステーションのある「タフリール広場」を目指す。
昨夜のクレイジー宿は、夜にタクシーで行って朝にまたタクシーで去ったから、もはやどこにあったのか、名前すらもわからない。
タフリール広場までの道すがらでも、見かける事はなかった。
もう二度と関わらない宿。
一体、あの出来事は何だったんだろう。
タフリール広場の近くに、バス乗り場があった。
バス…というか、乗合のバンみたいなもので。
現地の人は、これを「バス」と呼んでいる。
そして30分ほどで、「カスル」に着いた。
建物にも、「KASR」って書いてある。
このカスルという町は、いま私が滞在している「ムート市街」ができるまでは、ダフラ・オアシスの中心だったんだって。
迷路のような町並み…という事なんだけど、どこの事だろうか。
この町の歩き方がよくわからないので、適当に歩いてみる。
レンガ造りの家々が並ぶ、のどかな町。
時折、住民たちが「ハロー」と挨拶をしてくれる。
レンガの家もステキだけれど、こういうのもかわいい。
そして、真っ白い建物に突き当たる。
覗いてみたら、中に時刻表が置いてあったから、たぶんイスラム教徒の礼拝場かな。
礼拝場の脇に入ると、何やら素敵な都市群が目に入る。
たぶん、これが見どころの「カスル」だ!
中に入ると、泥づくりの街並みが目に入る。
凄い…外とは全く違う雰囲気だ。
何やら、モスクの様なものもある。
住人が木彫りの置物を作っていたので、声をかけてみた。
そうしたら、アラビア語で「あれを作っているんだよ」と教えてくれた。(たぶん)
似てる!
先に進もうとしたら、後ろから別の住人に声をかけられる。
アラビア語なまりの英語で、何を言っているかわからない。
「40ポンド」と言ったような気がしたので、「入場料がかかるの?」と聞いてみた。
うんうんと頷き、こっちに来いと言われる。
入場料がかかるなら払うけどさ…何だろう、ガイドとかなら必要ないんだけど。
「ガイドはいらないよ!」と言うも、伝わらない。
無視をして先に進もうとすると、しつこく呼び止められるし。
仕方がないので、付いて行ってみる。
そうしたら、ある扉の鍵を開けて中を見せてくれた。
なにやら、説明を始める。
え、ガイドはいらないって言ったのに…。
唖然としていると、「英語わかる!?」と聞かれた。
いつもなら、ムッとして「わかるよ!」と答えるか、謙遜して「少しだけ…」と答えるかの2択なんだけど。
この時ばかりは、自信満々に「ノー!」と答えた。
英語がわからない人に、これ以上ガイドをしても仕方がないでしょう?
なんだ、必要な入場料とかじゃなくて、ただのガイドだったんじゃんと、もう彼の事は無視をして先に進む。
すると、「そっちじゃない、こっちだよ」と私に付いてきて道案内をしようとしてくる。
私は、気ままに歩きたいのに。
「ガイドは必要ない」と、何度言っても伝わらない。
もう、仕方がないな。
私は、今にも泣き出しそうな、困った様な表情を作って、まるで恋人に別れを告げるかの様な湿った声でこう呟く。
「I don’t need you…(私には、あなたは必要ないの…)」
すると彼も、恋人に振られた悲しい男の顔をして、もうそれ以上私に迫ってくる事はなかった。
晴れて独り身になった私は、この迷路のような都市で自由を謳歌する。
いや、住人に案内してもらいながら見て回るのも、旅の醍醐味かもしれない。
それでこそ、より深くこの町について理解することができるはず。
だけど何となく、彼と一緒に行動はしたくなかったのだから仕方がない。
この町は、本当に迷路の様で。
色々な方向に道が伸びているから、どの道を通ろうか考えるのが楽しい。
この道は、どこに繋がっているのかな。
だけど、こっちの道も魅力的だなって。
開けた場所に出た。
ここには、家畜もいる。
そう、この町は今でも1000人くらいの住人が暮らしているという事なのだ。
人の気配は、あんまりしないんだけど。
そして、また開けた場所に出る。
迷路都市「カスル」の町並が、一望できる。
ガイドブックの情報によると、「学校」と「裁判所」が見どころという事なんだけどな。
ガイドを振ってしまった私には、どれの事だかよくわからない。
いつの間にか、町の外に出ていた。
丘があったので登ってみると、360°のダイナミックな風景が一望できた。
なんだかカッコいいところだ。
砂漠の砂の道を歩いて、バス乗り場の方向に向かって歩く。
砂漠の中のモスクも、凄くカッコいい。
ここは、砂漠の町なのだ。
いや、砂漠の中の「オアシス」の町か。
バスを降りたところに行くと、降りたのとは反対車線にバス乗り場があった。
宿に戻ると、まだ部屋は準備できていないと言われた。
まだ前の客が出ていないんだって。
この部屋ならすぐに使えるよと言われた部屋は、150ポンド(約1050円)という事だ。
私がいま待っているキャビンという部屋タイプは75ポンド(約525円)という事だから、前の客が出るまで待つ事にした。
待っている場所として、既にルームクリーニング済の空き部屋を貸してくれた。
え、いいのかな?
別にロビーとかでいいんだけど。
だけど「待たせてしまっているから」って。
別に気にしなくていいのに…。
なんて優しいんだろう。
汚さない様に、静かに過ごす。
そして、部屋の準備ができたので見に行ってみる。
そうしたら、どうも鍵の開閉がうまくいかない。
スタッフはできるのに…私は下手糞すぎてできない。
何度練習しても出来ないから、強制的に先ほど150ポンドと言われた部屋に変更になった。
まぁ、これは仕方がないか。
だけど100ポンド(約700円)にディスカウントしてくれた。
「ここでは、家族の様に過ごしてね」と言い残して、スタッフは去っていった。
もう、ここの宿の人は皆いい人。
夜、夕食を食べに町にでる。
ガイドブックには、「レストランが3件ほど連なる場所がある」と書かれている。
だけど、それらしき場所に行っても何もない。
何度かウロウロしてみたけど。
仕方がないので、タフリール広場の近くのレストランに入る。
(写真は、翌朝撮影)
メニューはあるかと聞いたら、口頭でメニューを教えてくれた。
今日は「コフタ」にしてみよう。
コフタは、細長いミートボールのようなもの。
これでミネラルウォーターも付いて30ポンド(約210円)
あぁだけど、エジプトのごはんって何でこんなに量が多いんだろう。
1品頼んでも、色々付いてくる。
コフタはハーフサイズにしたのに、意味ないや。笑
▼次回、またまた郊外へ▼
のどかな泥づくりの村「バシェンティー村」と、エジプトで一番満足した食事