前回、ヒマラヤトレッキングには主に3エリアがあるとお話しました。
- アンナプルナ山域
- ランタン
- エベレスト街道
今回は、「エベレスト街道」のコースについてのお話しです。
もくじ
エベレストとエベレスト街道について
このトレッキングエリアは「サガルマータ国立公園」「クーンブ山域」とも言われています。
世界遺産にも登録されています。
だけど「エベレストトレッキング」と呼ぶのがトレッカーの間では主流です。
エベレストに登るわけではありません。
エベレストを見に行くのです。
世界最高峰のエベレスト(8,848m)が目の前に佇むのです。
なんと素晴らしい事でしょう。
ちなみに、8,848mというのはネパール政府の言い分。
中国政府は、山頂の氷雪の厚さを除いて8,844mと主張しています。
アメリカの地理学協会のGPS測量によると8,850mという事ですが。
まぁ、どちらにしてもエベレストが世界最高峰である事に変わりはありません。
1852年にイギリスの測量局が、ヒマラヤにある世界最高峰を特定しました。
当時鎖国をしていたネパール王国の奥深くにあるこの山の地元名がわからず、測量局長の名前を取って「エベレスト」と命名しました。
ネパール開国後の1950年に、シェルパ語で「チョモランマ」と呼ぶ事が判明しましたが、ネパール政府がこれを好まず、ネパール語で「サガルマータ」と命名したそうです。
シェルパとは、チベット(中国領)からヒマラヤ山脈を越えて移り住んできた民族です。
ヒマラヤには、たくさんのシェルパが住んで、高山に強い彼らはガイドやポーターとして活躍しています。
エベレスト登頂を目指す際にも、彼らの力が必要なのです。
エベレストトレッキング主要ルート
さて、エベレストトレッキングに行くと決めたら、ルートを選びましょう。
Map data © OpenStreetMap contributors
上記のザックリな地図で、ほとんどのトレッカーの道筋を網羅できております。
青線が、ノーマルルート。
赤線が、あえて峠を越えるハードなルートです。
何度も来ていてメインルートに飽きちゃったマニアな日本人のお爺さんに一度だけ会いましたが。
彼は誰も行かない謎の湖を目指していました。かなりの例外です。逆さエベレストが見れるらしいです。素晴らしい。(余談)
拠点の町が2つ。
- ルクラ:飛行場がある。トレッキング開始の町。
- ナムチェ:(マニア以外の)全てのトレッカーがここを通り、そして方々へ分岐していく。
まずは飛行機でルクラに到着し、ここからトレッキングスタートです。
そこから2日ほど歩き、ナムチェに辿り着きます。
高度順応の為に、ナムチェでは2泊します。
目指す目的地は2つ。
【ルート1】コースタイム:11泊12日
*カラ・パタール・・・このコースの最高峰。標高5,550mの黒い丘の上から、目の前にエベレストを望むことができます。
*エベレストベースキャンプ・・・その名の通り。エベレスト登山に挑む者たちの出発地です。
【ルート2】コースタイム:10泊11日
*ゴーキョ・・・美しい氷河湖畔の町です。
*ゴーキョピーク・・・ゴーキョの傍にそびえる山。湖と氷河とエベレスト郡を一望できます。
①か②を選びます。
ダントツで人気なのが①!
多くのトレッカーがここを目指します。
そのため、②のコースは静かなトレッキングを楽しむことができます。
【ルート3】コースタイム:15泊16日
①も②もどっちも行きたい!選べない!という欲張りさんのために。
①と②の間にある峠を越えて、どちらも訪れるコース。
*チョラパス・・・①と②の間にある峠。標高5,420m。過酷。
ヘタレな私は峠のテッペンで号泣してコンタクトレンズを紛失するというアクシデントに見舞われました。
【ルート4】コースタイム:不明
ここまで来たら3パス制覇してやるぜ!というツワモノさんのために。
*チョラパス・・・上の通り。
*レンジョパス・・・ゴーキョ~ナムチェ間を素直に真っすぐ進まず、左へ大きく迂回し、峠を越えてゆくルート。
ある人が、3日かけて下ると言っていました。
またある人は、主要3峠の中でここが最も美しかったと言っていました。
峠を越えて見えてきたヒマラヤが絶景だったと。
だから登りの方がオススメかも。
*コングマパス・・・ある人が、主要3峠の中でここが最も過酷だったと言っていました。
コングマパスの麓の町チュクンから登るチュクンリという山も美しいという噂です。
エベレストは見えません。
チョラパス、レンジョパス、コングマパスで、3passと呼ばれています。三大峠です。
チョラパス→レンジョパス→コングマパスの順に人気です。
チョラパスは人がたくさん。
そのうち何人かがレンジョパスも。
さらにそのうち数人がコングマパスも。
という感じです。
これで終わりかと思いきや、もう一つあるのです。
「エベレストトレッキング第0章」とも言えるコースが。
カトマンズから、全て陸路で!ロングコースのススメ
先ほど、「ルクラ」という町に飛行場があり、ここが始まりの町だと言いました。
しかし、この町まで飛行機を使わずに、陸路で行くコースがあるのです。
トレッカーがこのコースを選ぶ理由は主に2パターン。
- 時間はあるけどお金がない。飛行機代節約タイプ。
- せっかくなら陸路に拘りたい、
ドМな変態…少し変わり者タイプ。
ちなみに、私は②です。
Map data © OpenStreetMap contributors
↑ 線は適当です。実際はもっと紆余曲折します。
【行程①】カトマンズ→ジリ
まず、陸路コースのはじまりの町「ジリ」までは、バスで行きます。
カトマンズのバスパークからジリまで、ローカルバスに揺られて10時間半。
ジリの標高は1995mです。富士山5合目と同じくらい。
【行程②】ジリ→ルクラ
ここから、飛行機組の始まりの町ルクラまで、約1週間かけて歩きます。
ルクラ以降は「標高の高い場所を目指して登ってゆく旅」ですが、ジリからルクラまでは「いくつもの峠を越えて向かう旅」です。
峠が多すぎて、そして気温もそれほど低くなく汗だくになるので、辛い道のりです。
私と同じローカルバスで到着し、同じ日に出発したトレッカーは、フランス人男性2人組だけです。
ルクラ以降のトレッカーの多さから考えると、とってもマイナーなコースなのだという事が分かります。
【行程③】それぞれの冒険へ
ルクラ以降はノーマルコースに合流しますので、各々好きなコースへと進んでいきます。
【行程④】ルクラ→サルエリ
ジリからスタートした変わり者トレッカーの多くも、帰りはルクラから飛行機に乗ってカトマンズに戻ります。
この時点でもう大満足だし、みんなとても疲れています。
旅を続ける理由なんてありません。
だけど、何故か更に「ジープが出てる町」まで歩いて行こうとする変人が少しだけ存在するのです。
私の感覚では、ジリから歩き始めるトレッカーの半分以上は、帰りはルクラで終了です。
私と同じ日にサルエリからジープに乗ってカトマンズへ帰ったのは、わずか5人でした。
全ロッジ満室で泊まれない町があるくらいの繁忙シーズンだったのに。
ちなみに、サルエリはガイドブックには載っていませんが、現地で販売している地図には載っています。
来た道を「タクシンドゥ峠」の山頂まで戻り、そこから「リングム」の標識の方へ下っていけば着きます。
ジリからスタートして、カラ・パタールとゴーキョを目指すと結局何日かかる?
私は、ジリからスタートして、カラ・パタール、エベレストベースキャンプを目指し、チョラパスを越えてゴーキョに行きました。
そのあとは真っすぐ下山。
そしてまたルクラから先の峠越えルートに入り込み、最後はサルエリ。
全部で24日間の行程でした。
レンジョパスとコングマパスには行っていません。
私の歩くペースは、かなり遅いです。
序盤は道に迷ったりもしました。
順調な人なら、あと2日間は短縮できるのではと思います。
途中で会ったオランダ人は、私と全く同じルートを私より1日か2日短い期間で歩いていました。
途中で会ったチェコ人は、私と同じ24日間で3パス全てを制覇していました。
途中で体調を崩してペースが落ちなければ、23日間で終われる予定でした。
つまり、欲張りコースを選んでも、多めに見積もって1ヵ月以内には終われるはずです。
ジリからスタートする魅力5選!
その1
なんと言っても達成感ではないでしょうか。
別に誰に自慢するために歩いていたわけでもないですが、私が「ジリ to エベレスト」の地図を見ていたら、周りの人が「凄い凄い」と言ってくれて、少しだけ誇らしい気持ちになったりもしました。
その2
高山病対策。
ルクラの標高は、2,840mです。
いきなりこんな町から出発して、それも体力がありズンズン進めちゃうのだから、高山病のリスクは高そうです。
それに対して2,000~3,000m前後の地点を登ったり下ったりしながら、徐々に高地に慣れる事ができるこのコースは、高山病のリスクを軽減できそうです。
その3
ルクラ以降、特にナムチェからは、壮大な高山風景の中を通ります。とてもダイナミックで素晴らしいです。
しかしジリ~ルクラ間は、それとはまた違ったヒマラヤののどかな風景を楽しみながら歩くことができます。
ナムチェ以降、物資を運ぶのはイカツイ高山動物の牛(ヤク)ですが、ルクラまでの道のりではロバ(ドンキー)の群れに度々遭遇します。
「今日もまたドンキー渋滞に巻き込まれましたね」なんて、宿で談笑のネタにできるのも、このコースならではです。ほっこり。
その4
シェルパの生活に触れられる。
シェルパとは、はるばるヒマラヤの向こう側のチベット(中国領)から移住してきた山岳民族です。
ポーターやガイドとして活躍していたり、ロッジを経営していたりします。
ルクラ以降は、大型ロッジが多く、「トレッカーがダイニングに数十人も集まる!」なんて場面ばかりです。
少し寂しいです。
ジリから歩けば、今日の宿泊者は私だけ!みたいな状況も多々あったり。
まるでホームステイをしているかの様な感じで宿泊ができます。
シェルパと一緒にご飯食べたり。
団らんしたり。紅茶を淹れてもらったり。
何だかあったかいのです。
その5
ルクラ以降、たくさんのトレッカーとすれ違います。
とても賑やかです。楽しいです。
だけどジリからの道のりで出会った人には、「特別な連帯感」を感じるのです。
一緒に歩いているわけではないのですが。
・・・
旅の序盤で、イケメンオランダ人親子に会いました。お父さんが若者ではない為か、毎日の目標の町が私と一緒でした。
最後の目標地点「ゴーキョピーク」では、一緒に絶景を見ました。
この頃は全く英語が喋れず、まともなコミュニケーションなんてとれなかったけど。
同じパーティーとは言わないまでも、姉妹パーティーにはなれました。
だって、次にどの町を目標にしようかって、相談して合わせたりしたんですもん。
・・・
旅のクライマックスの直前に、フランス人に声を掛けられました。
「ジリで会いましたよね?」って。
そう、ジリまでのバスが同じで、一緒にスタートした(けれどスタスタと先に行ってしまった)フランス人に、15日ぶりに再会したのです。
彼等はチョラパスを、私とは逆ルートで越えて来た様でした。
この一期一会な感じに、なんだかホッコリです。
・・・
旅の終盤、変人サルエリまでのルートで、チェコ人2人組に再会しました。
彼らとは、15日ぶりの再会でした。
お互いに冒険を終えた帰路、一緒に歩いたわけではないのに不思議な仲間意識を感じました。
その日新たに出会ったオランダ人と、翌日に加わったイングランド人と、最終日に合流して5人でゴールしました。
そして13時間の悪路のジープ移動を共に過ごしました。
・・・
一度出会って、二度と出会えなかった人もたくさんいます。
だけど私は、あの丸眼鏡の彼の事も、あの素敵な老夫婦の事も、あの逞しいお姉さんの事も、決して忘れないのです。
みんな、ジリからのつらい道のりに共に挑んだヒマラヤ仲間なのです。
私の片思いかもしれませんが。
そんなわけで、時間と体力が許すのであれば、「ジリから歩く旅」お勧めです。
ちなみに、ジリから歩く人は100%、カラ・パタールとゴーキョの両方を目指していました。
そりゃそうですね、せっかく長々歩くんだから、どっちも行きたい。
次に行くときは、ジリからスタートして、時計回りに3パスを通過してみたいと思います。
次があれば。