シラケーブキャンプ(3,750m)→バランコキャンプ(3,900m)
今朝はペトロが見張っていないのをいいことに、パンを3枚だけ食べて1枚残し、スープは2杯飲んで1杯残す。
先ほど紅茶をもらいに私のテントに来たペトロのカップに、紅茶の代わりにスープをたっぷりと注いであげたから、少し負担は軽減された。
卵とフルーツは完食。
夕食に比べれば、楽勝だ。
どうやら私は、このキリマンジャロの地に、「食べる修行」に来たようだ。
▼前回のお話し▼
【キリマンジャロ登山2日目|マチャメルート】富士山の山頂と同じ高さを目指す
シラケーブキャンプからラバタワーへ
朝から雨が降っているので、レインジャケットを着こんで出発。
今日は、標高4,600mのラバタワーという地点まで行って、そして今滞在しているシラケーブキャンプ(標高:3,750m)とほぼ同じ標高の3,900m地点まで下るのだ。
そう聞くと、効率が悪いようにも思えるけれど、高度順応的にはこれでいいのだ。
8:15。
霧の中に向かって、出発。
雨は、止んだり振ったりを繰り返す。
そして、約4時間後の12:20。
標高4,600mのラバタワー(Lava Tower)に到着。
ここで、朝持たせてもらったランチを食べる。
うん、この量なら食べられそう。
嬉しすぎる。
少し多いかなとは思うけど、頑張れば食べられる量。
パン、チキン、ニンジンスティック、ビスケット、フルーツジュースなどが入っている。
入っていたライムは残して(量的にというよりは、寒すぎて触りたくないから)、ビスケットは行動食用にポケットにしまう。
私は持参したランチ袋を、岩に座って食べているのだけど。
ツアーによっては、ポーターが設置したテントの中で、コックが作った料理が食べられる様だ。
こういう豪華なツアーに参加しているのは、欧米人グループが多い。
彼らは設置されたイスとテーブルに座って、暖かい飲み物も飲んでいる。
至れり尽くせりだ。
霧の中から、キリマンジャロが顔を覗かせる。
2日後には、あそこの頂に立っているのだ。
凄く、遠い所の様に感じるけれど。
ラバタワーからバランコキャンプへ
30分ほどのランチタイムの後、登山再開。
今日は既に3/4の行程が終ったらしい。
ここから2時間ほど下った場所に、今日のキャンプ地がある。
気を付けなければ滑り落ちてしまいそうな、急な岩場の道を下る。
間もなく、普通の土の道になる。
なんだか、高山植物というよりは、南国にもありそうな雰囲気の植物がたくさん生えていた。
道の途中にも!
そして、出発してから6時間30分後の、14:40頃。
標高3,900mの、バランコキャンプ(Baranco Camp)に到着。
ウフルピークまで、あと15キロで15時間!
明日は、いよいよ最終キャンプ地まで行く。
たぶん、今日よりも長い行程。
そして少し眠ったら、いよいよアタックだ!
山頂には朝6時着と言っていたから、きっと仮眠だけして深夜に出発なんだろうな。
ゆっくり休めるのは、今日で最後だ。
キリマンジャロでの食べる修行と、食べられないシベリア抑留
テントに入ると、ポップコーンとナッツが運ばれて来た。
今日は早く着いたので、紅茶を飲みながら、ゆっくり漫画でも読もうか。
『氷の掌』(おざわゆき著)
シベリア抑留者だった、筆者の父親の体験を元に書かれた物語。
シベリア抑留者は、終戦後、ロシアの要請により捕虜として渡された人たち。
もちろん彼らは、そんなことは承知ではなくて。
よくわからないままに、寒い寒いシベリアの大地で、命を削りながら働かされていたのだ。
この漫画は、ヒマラヤトレッキング中にも1度読んでいた。
「寒くて過酷な環境」に来ると、読みたくなる。
そして、彼らの明日をも知れぬ辛い運命に比べたら、私の置かれている環境など、全く大したことはないのだと思い知らされる。
『氷の掌』を読み終わった頃、夕食が来た。
心なしか、スープの量が少ない気がする。
話は遡って、キャンプ到着直前。
元気のない私に、ペトロが「疲れたの?」と聞いた。
私は「疲れてない。ただ、夕食の事を考えて憂鬱になっているだけ。」と答える。
我ながら、酷いことを言うなと思う。
だけど、それほど深刻に悩んでいるのだという事を、どうにかして理解してほしいのだ。
キャンプ地に着くという事はさ、本日のゴールなわけだから、本来であれば喜ばしい事なのに。
着いたら食事を取らなければいけないというプレッシャーの方が勝るなんて…通常の精神状態ではないよ。
スープは、いつもは4杯分取れるのに、今回は2杯分しか取れなかった。
パンも、いつもは4枚あるのに、今回は3枚しかない。
いつもはペトロが何故かテントに入ってきて、
「パンを食べなよ!」
「スープを飲みなよ!」
「パンが残っているよ!」
と、せわしなく指示を出すのだけど、今回は入ってこない。
実は先ほど、紅茶の時間の時に。
「一緒にお茶してもいい?」とテントを訪ねて来たペトロの誘いを、断ったのだ。
それでかな、夕食時も来なくなった。
ゆっくりと、美味しいスープを2杯飲む。
うん、楽しい夕食って、こういうものだよね!
追加で、パスタとソースが来た。
多分いつもよりは少ない…が、完食は無理だな。
ゆっくり、休憩も挟みながら、なんとか半分だけ食べる。
『氷の掌』を読んだ後に食べ物を残すのは、とても心苦しいのだけどね。
彼らは、わずかな食べ物で重労働を強いられたのだ。
道端に生えている雑草でさえ、ご馳走だったのだ。
私は、愚かな贅沢ものだ。
ペトロが、食事は終わった?と、ようやく顔を見せる。
終わったよと、半分だけ残った鍋を渡す。
まだ残っているじゃない!と言いつつ、いいよと言ってくれた。
やっぱり、やっと理解してもらう事ができたみたいだ。
ようやく「食べる修行」から解放された喜びと同時に、ようやく申し訳ない気持ちも芽生える。
不思議な事に。
明日は、6:30起床だって。
最終キャンプ地まで8時間の行程で、少し休んだら夜の12時に山頂に向けて深夜登山だ。
シラケーブキャンプ(3,750m)
↓(7キロ/4時間)
ラバタワー(4,600m)
↓(3キロ/2時間)
バランコキャンプ(3,900m)
▼次回のお話し▼
【キリマンジャロ登山4日目|マチャメルート】ついに、最終キャンプ地まで来た