ゾンラ(Dzongla)4830m
今日の私の選択肢は二つ。
1つ目は、元来た道を帰る道。
2つ目は、西へ峠を越えてゴーキョという町を目指す道。
昨日、このトレッキングのハイライトを見終えた私。
もう日本に帰ってもいいんじゃないかと思えるくらいの、達成感と満足感を得た。
だから1つ目の道を選んでもいいんじゃないかなと。
西へ向かう場合、標高5420mのチョラパスという峠を越えなければいけない。
このトレッキングで私が体験するであろう標高の中では、カラ・パタール(標高5550m)に次ぐ。
エベレストベースキャンプ(標高5364m)よりも、ゴーキョから目指す山ゴーキョピーク(標高5360m)よりも高い。
カラ・パタールへは、麓の町ゴラクシェプに荷物を預けて向かったから、大荷物を背負って越えるチョラパスは、もしかしたらこのトレッキング中で最も過酷な旅路になるかもしれない。
ガイドブックには「途中のゴジュンバ氷河にはクレバスなど危険な場所もあるので、必ずガイドを同行すること」とも書いてある。
そこまで無理して行くほどの場所なのかな。
あんなに間近で素晴らしいエベレストを見てしまったし。
答えが出ないので、迷った時の私の行動指針に従う事にした。
(本当は、もっと深刻な悩みのための行動指針なのだけど…笑)
- 「A」か「B」かで迷ったら、成り行きに任せる。
(神様の導くままに…!) - 「やる」か「やらない」かで迷ったら…「やる!」
うん…行こうか、峠の向こう側へ。
「無理して行くほどの場所でもなかったな」と思ったとしても、それを実体験として感じることが大切。
エベレストベースキャンプだって、正直ガッカリはしたけれど、「行かなきゃよかった」とは思わなかったもの。
「そういう場所だった」と感じる事ができただけで、「行ってよかった」と思ったもの。
それに私は、「私の事を心配してくれている(…かもしれない)」と思う人に対しては保険を張っていた。
「一ヶ月間は音信不通でも心配しないで」と。
だから万が一私の身に何かが起こっても、一ヶ月以上音信不通の場合は「無言の知らせ」として察してもらえるはず。
(もちろん生還するつもりだけれど。「万が一」ね。)
ロブチェ(4910m)→ゾンラ(4830m)
ロブチェの宿を出て、まずは来た道を戻る。
出発後20分程度で、チョラパスへの道しるべが現れた。
ここを曲がれば、私の旅はまだ少し続く事になる。
山道を途中まで登ったところで、ふと疑問が浮かぶ。
戻り道「トゥクラ」へは、向こう側の丘を歩く。
ゴーキョへの峠越えの前に泊まる町「ゾンラ」は、ロブチェより80m程度標高の低い町。
このまま登っていってから下るのか。
それとも眼下に見える谷沿いの道を、緩やか~に下っていくのか。
え~、さっそく迷子??
谷の下からこちら側へ歩いてくる人影を見つけたので、待ってみる。
待つこと10分、彼はまだ来ないけど対面から地元民が来た。
聞いてみたら、この道で合っていた。
よかった~!…のか??
だって、この道かなり危険だと思うんだけど。
片足づつ乗せるので精一杯な、心もとない細~い足場。
左手は、急な斜面。
怖すぎる…。
恐る恐る進んでいくと、目の前を大きな岩に塞がれる。
滑り台の様な、綺麗な傾斜の一枚岩。
こんな状況で、土のない場所に足を乗せるなんて怖すぎてできない。
ストックを外して、両手を使って這いつくばって登ろうとするんだけど…。
いや~、これは少し失敗しただけで谷底に真っ逆さまだよ~。怖いよ~。
…と思っていたら、対面から現れた男性が私を引っ張り上げてくれた。
神様っ…!!!!
大変なのは明日の峠越えで、今日は簡単な道のりだと思っていたのに。
こんなに危険な道のりと知っていたら、恐らく私は選ばなかった。
命をかけてまで挑みたい挑戦ではないもん。
もう後戻りはできない私は、先へ進む。
(進むのも恐怖だけど、戻るのも恐怖)
すると、今度は犬に行く手を阻まれる。
犬は私が通り過ぎるのを待っているようだ。
だけど彼とすれ違うためには、私が谷側を通らなければいけない。
「ねぇドッグ!私はそこの道を通りたいんだよ!」と日本語で話しかけてみる。
何故か思いが通じ、犬が私の脇をすり抜けて先にすれ違ってくれた。
何人かのトレッカーとすれ違うとき、私は先手を打って山側で待機。
自分勝手かもしれないけれど、彼らには谷側を通ってすれ違ってもらう。
(だって荷物の量と性別のハンディがあるしね!)
すれ違う時に挨拶を交わしたトレッカーに、「ジリで会ったよね!?」と言われる。
出発の町ジリで会った男性2人組といえば…あの足の長いフランス人か!
なんと15日ぶりにこんなところで再会できるとは。
なんだか嬉しい気分で先に進むと、少し道幅が広くなった。
谷側の傾斜もゆるやかだから、足を踏み外しても大丈夫そうだ。
…と思ったのもつかぬ間、また危険な道になる。
(本当に危険なところは写真を撮る余裕もないので、記録に残せないのが残念)
長々と危険な道を歩んできた私は、慣れてしまったのか恐怖心がなくなっていた。
「いやいや、慣れちゃダメだろ!油断禁物だよ!」
と自分を戒めた瞬間、急に恐怖心が戻ってきた。
う~ん、過剰な恐怖心も危険な気がするんだけど。難しい。
こんな危険な道のり、もっと若い頃なら楽しめたんだろうな。
ものすごくワクワクしたんだろうな。
歳を取るとは、こういう事か。
宿を出て1時間半後、ようやく開けた場所に来た。
トレッカーが石投げをして遊んでいるほど余裕な場所。
そして、私の進行方向は素晴らしい景観。
この広場を抜けるとまた細い道になるのだけど、山の麓の湖に魅せられてしまう。
こんなに素晴らしいご褒美があるなら、ここへ来た甲斐もあるんじゃないかな。
しかし、いつまで続くんだろうか。。。
冬季は峠が封鎖されて、ゾンラの宿も閉まるらしい。
そうだよね、ここに雪が少しあるなんて状況、考えただけでもゾッとする。
雨で少しぬかるんでいるだけで無理だと思うもの。
私が谷底に落ちても、誰にも発見されないんだろうな。
そんなときの為にウエストポーチに忍ばせてある笛に頼るしかない。
あぁ、だから単独行動の人がいないのか。
あと1人でもいれば、もう1人が助けを呼びに行けるものね。
私…なんか無謀なことをしているんじゃないかな。
10:10、遠くに町が見えてきた。
あれがゾンラだろうか。
(いや、そうに違いない!)
まだまだ遠い道のりだけど、目標が見えているのと見えていないのでは気分が違う。
なかなか近づかないな~と思いながらも、目標を見据えて慎重に進んでゆく。
そして、ようやく安全な道に出る。
あの丘に登れば、本日のゴール。
ここからが長そうなんだけどね。
ゾンラ到着|標高4830mのバケツシャワー
予想通り、安全な道に出てから50分もかけてゾンラに到着。
11:40、本日のコースタイムは3時間45分。
1件目の宿は、まさかの満室。
この町でもそんな現象が起こるなんて…!
2件目の宿の前を通りかかると、客なのかスタッフなのかわからない人に「空いてるよ~600ルピー(約600円)だよ~」と言われ素通り。
だって今までより高いんだもの。
3件目の宿に尋ねると、空いているとの事。
値段は600ルピー。
あ、この町の相場だったんだね。
最近の私は、紅茶をポットでもらってダイニングでくつろぐ事に快適さを感じている。
部屋は寒いし、電気を付けても薄暗いから。
個室は寝るための場所&荷物置きと思っている。
ランチに、昨日K君にお勧めしてもらったシェルパシチューを食べる。
シェルパシチューは、とても優しい味で、米やマカロニや野菜など色々な栄養素が入り混じっている。
昨日は焼いた鶏肉を入れてもらった。
今日はマカロニが入っていない代わりに、麺を細かく切ったものとお餅の様なものが入っていた。
そして、「この町でなら私、脱げそう…!」と思った。
標高は4830mと決して低くはないのだけど、寒くはなく、今はお昼時だから髪の自然乾燥の時間も充分。
トイレで浴びるバケツシャワーで、それも700ルピー(700円)もする高級なお湯。
だけど、身体はともかく髪の毛が非常にゴワゴワしているのが気になる。
恐らく、目に見えない砂埃などが溜まっているんだと思う。
高級バケツシャワーを浴びる事にした。
脱ぐには脱げたんだけどね…お湯をかぶった後の冷え具合が想像以上だった。
髪の毛だけ洗って、身体は洗わない事にした。
身体を洗っている間の寒さに、耐えられる自信がない。
最後に残ったお湯を豪快に浴びて、速攻で服を着る。
これはシャワーというよりは「湯浴び」だな。
だけど、とてもスッキリした気分。
なんたって、ナムチェ以降7日ぶりのシャワーだもの。(←不潔って言わないでっ!)
こんなに長期間シャワーを浴びない経験って、後にも先にも今回だけなんじゃないかな。
(K君は、最後に浴びたのはカトマンズと言っていた。ツワモノ…!)
ダイニングに戻ると、なんとオランダ人親子とガイドのクマルがいた。
シャワーと同じで、ナムチェ以降7日ぶりの再会!
彼らは、K君が向かうと言っていた「チュクンリ」に行ってからカラ・パタールを目指したらしい。
私が知らなかっただけで、チュクンリって結構有名なのかな…?
だけどチュクンリに寄っているにも関わらず私とここで再会できるなんて…ペースが違い過ぎて驚く。
明日はゴーキョまでは行かず、峠を越えた先の「タンナ」という町に宿泊するという。
所要時間、7時間。。。
えーーー!
彼らで7時間という事は…私は一体何時間かかるのか。
しかもゾンラ~タンナ間には他に町はない。
明日は、早起きをしよう…。
ロブチェ(Lobuche)4910m
↓(3時間45分)
ゾンラ(Dzongla)4830m