カトマンズ -Kathmandu-
朝9:00。
ホテル最上階の朝食会場で、昨日空港から送迎してくれたスシルと待ち合わせ。
彼と一緒にATMに行ってお金を引き出し、昨日払えなかったタクシー代を払う予定だ。
会場に行くと、彼は既に来ていて欧米人と同席をしていた。
「ナマステ~!」
とりあえず、私は一人で座って朝食を注文する。
もくじ
トレッキング大国「ネパール」での熱心な勧誘者たち
朝からスパイシーだったらどうしようかと思ったけど、普通に素朴な食事で安心。
これで302ルピー(約302円)。
朝食を食べていると、スシルが友達を連れてきた。
その友達は旅行会社の人間で、私がヒマラヤトレッキングをすると聞いて勧誘に来たのだ。
ヒマラヤトレッキングについてはまだ考えたくないし、できれば自分のペースでのんびりと行きたいからガイドは雇わないつもり。
「とりあえず登ってみて、荷物の重さに耐えられなくなったら、途中の町でポーター(荷物運びの人)でも雇おうかな~」という考えでいた。
「いつから行くの?」と聞かれ、「決めてない。先にカトマンズを観光してから行く」と答える。
「先にトレッキングに行って、そのあと観光をすればいい」と言われたので、
「観光をしてからトレッキングに行く」と譲らず言い返すと、彼は諦めて去っていった。
ふぅ~。
すると間もなくして、今度は日本語の堪能なネパール人が来た。
彼の名前はナラヤン。
(以下、ナラヤンとの会話は全て日本語)
朝食会場では、主に雑談をしていた。
今日はどうするのかと聞かれたから、ATMでお金を引き出してスシルに返すんだと答えた。
「よし、じゃあ行こうか」とナラヤンと出かける流れになる。
スシルは、じゃあまたね~と見送ってくれた。
え!?スシルと行くんじゃないの…???
まぁどっちでもいいかと思い、ナラヤンに付いていく。
昨日は夜だったからわからなかったカトマンズの街並みが目に入ってくる。
今日は、ATMで無事にお金を引き出すことができた。
30,000ルピー(約30,000円)を引きだしたら、1,000ルピー札が30枚も出てきた!
なんだかお金持ちになった気分だ。
そのあと、ナラヤンが地図を使っていろいろ説明してくれるというので、無防備にも後を付いていく。
ATMだけ案内してもらって「はい、さようなら」はできない日本人な私。
ようこそ!と案内された場所は、旅行会社だった。
なるほどね。
説明は聞くだけタダなので、大人しく聞いてみる。
どこまでならバスで行けるかとか、実はジープでもっと上まで行けるとか。
ルートは私が考えていたのとは逆のルートの方が、下りが多くておすすめだとか。
為になる話がたくさん聞けてよかった。
だけど、そこで「さようなら」というわけにはもちろんいかず、料金の説明になった。
ざっくりまとめると、ポーターは一日$25。
そこにポーターの食費・宿代、トレッキングの許可証代(自分で取得する場合は$20)、往路のバスと復路のジープ代を含めて25日間で$852。
プラス、私の分の食費・宿代、レスキューを無料で呼べる保険なども頼むと合計$1750。
「宿代など自分で支払ってもそれくらいはするよ~」と言われたけど、そんなにしない事を私は知っている。
とりあえず、ポーターが一日$25というのが相場なのかを調べてからだな。
だけど、荷物のあまりの重さに自信を無くしている私は、最初からポーターを雇うのもありかもしれないと思い始めている。
ちょっと考えてみます!という日本人的な挨拶を交わして事務所を出る。
う~ん、どうしようか。。。
ナラヤンによると、今日を含む数日間はネパールのお祭りだから、みんな実家に帰っているらしい。
だから、カトマンズの人口は普段より少ないんだとか。
「ダサイン祭り」というネパール最大のお祭り。
実家に帰って家族と過ごし、寺などの宗教施設でお祈りをするんだって。
日本の正月みたいな感じなのかな。
だから「お寺に行けば見れるよ」との事。
ネパールの街をしばらくプラプラしてみよう!という事で、当てもなく歩いてみる。
う~ん、この混沌とした感じがいいね。ネパールに来たぞって感じ。
歩いていると、ハローとよく声をかけられる。
私も、ハローと返答する。
するとすかさず寄ってきて、どこから来たの?ネパールには何日くらいいるの?と質問攻め。
挙句、旅行会社を経営しているのでトレッキングの相談に乗りますなどと言われる。
ハローと返しただけなのに。
軽い対応が、客引きを引き寄せる。
挨拶もしてはいけないのか、この町は。
寂しいけれど、それからは心を鬼にして無視を決め込む事にした。
ハロー!ナマステー!コンニチワー!ニーハオ!
ジャパニーズ?チャイニーズ?オゲンキデスカ?
もう、全部無視!
ネパールには野良犬がたくさんいるのだけど、猫は珍しい。
しかも可愛い。
人間でもよくある、「写真に半目で写っちゃった~泣」状態になってるけど。
それにしても、空気がとても汚い。
歩いている人の3人に1人くらいは、マスクを着用している。
それも、ちゃんとした立派なマスク!
私なんぞは大量買いでお得なぺらっぺらのマスクしか持ち合わせていないのだけど、それでもないよりはマシかと思い、一旦宿へ取りに帰る。
タメル地区からダルバール広場を目指す
宿で一息ついたあと、ここタメル地区から南へ2kmほどの場所にあるダルバール広場を目指して歩く事にした。
*タメル地区:カトマンズの中心地。宿や飲食店、お土産屋や登山用品店などが立ち並ぶ、旅行者向けのエリア。
*ダルバール広場:昔の王の宮廷がある広場。世界遺産。
タヒティ・チョーク
土産物屋が並ぶ雑多な街並みを抜けると、タヒティ・チョークに着く。
チョークとは市場の事。この先、何個かのチョークを通ることになる。
ここには、ストゥーパ(仏塔)が建っている。
チベット仏教では、神聖なものは右回りに回るのがマナー。
私もストゥーパの左手を横切る。
すると、ストゥーパを覆う柵に鶏が繋がれていた。
鶏が繋がれている光景なんて、初めて見た。
このタヒティ・チョークを過ぎると、雰囲気がガラリと変わる。
先ほどまでは、観光客向けの地域だったんだなというのがわかる。
ここからは地元民向けのお店が立ち並び、人通りも増える。
アサン・チョーク
アサン・チョークに着くと、にぎやか過ぎて驚く。
ガイドブックには、「ネパールで一番ネパールらしいところ」とまで書かれている。
セト・マチェンドラナート寺院
アサン・チョークを過ぎると、右手にセト・マチェンドラナート寺院が見えてくる。
ここでお祈りをしてみようと思うのだけど、日本流に手を合わせて祈ればいいのかな?
丁度現地の女性たちが参拝に来たので、その様子を見てみる事に。
すると、脇から現れた男性が作法を教えてくれた。
まず右の器の赤いチョークを額に塗る。
そして、手前の花びらを頭に振りかける。
蝋燭を一本持って、願いながら時計回りに回す。
「家族が幸せになりますように」くるり
「家族が健康でいられますように」くるり
「平和な毎日を過ごせますように」くるり
・・・という感じで5~6回くるりの後、蝋燭をお供えする。
それにしても、私利私欲ではなく優しい願いな事にジンとくる。
この後は、寺院を時計回りに一周する。
ここはヒンドゥー教のお寺なのだけど、チベット仏教と一緒でヒンドゥー教も時計回りなのかな。
その途中、
「私はガイドではありませんので、お金は取りません。安心してください。」
と言われる。
(でた!これは怪しいやつ!そう言っておいて、別の理由を付けてお金を請求するパターンだ!)
と、知識だけはあったのに確信がないから抗えない。
普通に親切な人の可能性もまだある。
すると、中国人の女の子に声をかけられる。
早口だし、何て言っているかわからない。
男も、「気にしないで行こう」みたいな感じで私を彼女から引き離す。
そして、私を狭い路地へ連れていこうとする。
え?それは付いて行ってはいけないやつでは?
どうしようと思っていたら、誰かに後ろからリュックを引っ張られた。
振り返ると、先ほどの女の子。
スマートフォンに表示された日本語の文章を見せられる。
「彼は嘘つきです。あなたを騙すつもりです。気を付けて。」
私は、彼女が声をかけてくれていなかったら、どうしていただろうか。
怪しいと心のなかで思っているにも関わらず、拒否できずに流されていたんじゃないだろうか。
彼女にとても感謝した。
そして、自分の愚かさを恥じた。
彼女に何度もお礼を言って別れる。
目的のダルバール広場に向かう途中も、ずっとこの事を考えていた。
そういう手口がある事は、知識としては知っていたのに。
知っているのと、実際に対応できるのは全く別の話なんだ。
私は、なんて愚かなんだろう。
世界旅行を夢見て知識だけは豊富に集めた、経験のない頭でっかちな私。
頭でっかちになりつつあるという事は、日本にいる時から感じていた。
だからこそ、早く「経験を伴う知識」にしたいと思っていた。
自己嫌悪に囚われて気分が下がりに下がっている状態で、ダルバール広場に到着。
ダルバール広場(世界遺産)
ダルバールとは、ネパール語で「宮廷」という意味。
王宮前の広場として、カトマンドゥ王国の中心地だったところ。
(他の地域にもダルバール広場はあって、各地の王たちが競い合っていた)
ここから先は入場料1,000ルピー(約1,000円)が必要。
1,000ルピー払ってまで見たいものでもない…というか落ち込んでいてそんな気分ではないので、引き返す事にした。
帰り道、先ほどより人の数と交通量が増えている気がする。
人混みと同じ様に、バイク混みがある。
バイクが当たり前の様に人々の間を通り抜ける。
いつかタイヤに足を踏まれるのではなかろうか…。
私は、バイクや車が来たら脇に避けて通り過ぎるのを待つのだけど、地元民は、全く気にせずバイクと共存して歩いている。
凄い…バイクの運転手も、それで事故になったりしないのだから凄い。
それにしても、空気が汚い。
こんなところに何日もいたら病気になりそう。
早くヒマラヤの美味しい空気が吸いたい。。。
日本の高度経済成長期も、これくらい汚れた空気だったんだろうか。
教訓を生かして、何か援助などできないのかな。
行きとは逆に、帰りは宿に近づけば近づくほど落ち着いてくる。
とは言っても、閑静な住宅地の様になるわけではない。
「渋谷ではなく池袋」「梅田ではなく新大阪」「すすきのではなく大通り」という感じ。
比べると静か、という事。
モンキーテンプルを目指して西へ歩く
さて、宿に着いてこのあとの流れを考える。
時刻は15:00。
40分ほど歩いたところにある丘の上の寺院、スワヤンブナート(通称:モンキーテンプル)へ行ってみる事にした。
日没までには帰りたいから、のんびりはしていられないけれど。
また少し喧噪のあるところへ南下して、西を目指す。
西へ西へと目指すなんて、アシタカみたいだ。
しばらく歩くと橋が見えてくるので、これを渡る。
渡ってすぐのお店のおじいさんに聞いたら、こっちだよと教えてくれた。
そしたらまた分かれ道。
彷徨っていると、賑やかな声がしたので行ってみる。
小さな橋を渡った先に、宗教施設があった。
皆がお祈りの列を作っている。
そうか、お祭り(ダサイン)だからかな。
神様に 、端から順に額を乗せながら祈る。
すぐ近くでは、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
こういうの、楽しいよね。
子どもが楽しい物は世界共通なんだなと思うと、なんだか嬉しい。
日没までには帰りたいのに、自力では行けなさそう。
諦めて帰ろうかとも思ったけど、人に聞きながら向かう事にした。
分かれ道が現れる度に、人に聞いて進む。
向こうから話しかけてくる人は無視しなければいけないけど、
こちらから話しかけた場合はとても親切に対応してくれる。
そうか、コミュニケーションを取りたければこちらから歩み寄ればいいのか。
すぐ着くかと思っていたのに、まだあんなに遠い丘の上。
迷ってたから、もう1時間以上も経っている。
丘の麓にたどり着くと、敷地内の猿の多さに驚く。
しかも凄く可愛い、毛がサラサラで小柄な猿。
親子もかわいい。
いやいやいや!
動物園のサル山の比じゃないね!
ここ「スワヤンブナート」が、モンキーテンプルと呼ばれている事にも頷ける。
ペットボトルの水を器用にラッパ飲みしている猿もいる。
盗られないように気を付けなくちゃ…。
スワヤンブナートへは、ひたすら階段を登らなければいけないみたい。
めちゃくちゃしんどい。結構急だし。
トレッキングのよいトレーニングになる。
もう着いたかなと思ったら、第二段階が待っていた。
ひゃ~~~。
後で調べたら、なんと400段もあったみたい。
登りきると、夕暮れ前のカトマンズの街並みが一望できる。
写真には収まり切らない、視界一面のオレンジ色の世界。
かつて、このカトマンズ盆地が湖だった頃から、この丘にはこのスワヤンブナートが建っていたという逸話がある。
早朝にこの場所を訪れると、眼下に雲がかかって街並みを消してしまうのだとか。
それはきっと、かつての湖の様に見えるんだろうな。
カトマンズ盆地の反対側には、美しい山並みが広がる。
あの向こう側はチベットなのかな。
日も暮れかけているので、早々に宿に戻る。
今度は迷わず真っすぐに帰宅。
夜のカトマンズ
宿で休憩をしていたら、夜になってしまった。
夕食はどうしよう。
ネパールでの初夕食。
朝は宿で食べたし昼は食べていないから、外で食べるのも初。
でも夜に出歩くのも初だから、なるべく迷わず簡単に行けそうなお店を選んで向かう。
夜は、昼とはまた違う世界だ。当たり前だけど。
だけど相変わらず人通りは多いから、そこまで治安が悪いという事もないのかも。
チベット料理屋|ギリンチェ -Gillingche-
そして、迷わず到着したギリンチェ。
チベット料理のお店。
ネパールには、ヒマラヤ山脈を越えて移住してきたチベット民族が多数暮らしている。
モモとコーラを注文。
具はチキンを希望したんだけど、今日はもうないと言われたのでブッフ(水牛)にしてみた。
どんな味だろうか。くどいのかな?
以前インド人に、神聖なのは乳牛で水牛は神聖ではないと教わった。
だから、きっと食べても平気なんだね。
ヒンドゥー教徒にとって、牛は神聖だから食べない。豚は不浄だから食べない。
ここはチベット料理のお店だから関係ないかもだけど。
(チベットは仏教)
モモは、つまりは餃子の事。蒸したものが一般的。
これがネワール料理だとシュウマイの様な丸い形になる。
味は、とても美味しい!そしてブッフ好きかも私。
食べ続けていると、なんだか涙が出そうになってくる。
泣くほど美味しいかと聞かれれば、それは言い過ぎになる。
日本でこれを食べたら「普通においしい」という感想になるんだと思う。
けれど、ここは異国で、今日は色々あって、このお店にも夜の緊張感の中たどり着いていて。
そんな状況でこの素朴な食べ物を食べていると、安心感が込み上げてくる。
千と千尋の神隠しで、千尋がハクにもらったおにぎりの様な。
あれも、決して「絶品おにぎり」というわけではなかったはずだ。
あぁ、よい夕食に出会えてよかった。
値段も、モモとコーラで205ルピー(約205円)という安さ。
また来たいな…!
【本日の教訓】
話しかけられても、とにかく無視!ムシムシムシ。
(だけどこちらから話しかければ、丁寧に対応してくれる)