6月末。
大雪山系の旭岳(あさひだけ)に登るべく、旭岳温泉に前泊。
北海道の最高峰であり、深田久弥氏の『日本百名山』にも選定されている、標高2291mの山。
緯度の高い北海道では、標高3000m級の山々に相当する気候。
夏でも低体温症による死者も出ており、本州のアルプスの秋山程度の装備が必要だという事だ。
▼前回のおはなし▼
旭岳登山の玄関口「旭岳温泉」と快適ゲストハウスでの久々ドミトリー
旭岳温泉ホステル ケイズハウス北海道の朝
朝3時。
予定通り起床。
同室の男性3名はイビキをかきながら気持ちよさそうに眠っているので、起こさない様にそっと荷物を掴んで外に出る。
着替えや荷造りは、ロビーで済ませよう。
外は、相変わらずの霧模様。
冷蔵庫に用意されている朝食用のパンにジャムを塗って、紅茶と一緒に頂く。
朝早い登山者には、大変ありがたいサービスだ。
着替えや洗顔は温泉の脱衣所で済ませる。
登山に不要な荷物は無人のフロントの奥に置かせてもらう。
(宿の主人に確認したら、防犯上気にならないならそれでOKとの事だった)
待っていても霧が晴れないので、4時30分に宿を出る。
これは、、果たして晴れるのだろうか??
旭岳温泉コースからスタート!
あさ5時。
登山道の入り口に到着。
普通は5合目付近までロープウェイで上って、そこから山頂まで2時間の「初心者でも簡単♪」と謳われている旭岳登山だけれど、それでは味気ないので麓から登る計画だ。
だって北海道最高峰の地を踏むのにね、やっぱり「苦労してようやくたどり着いた感」は必要なのよ。私的に。
麓の旭岳温泉から登るコースなので、「旭岳温泉コース」という。
さて、通常ならプラス2時間になるところだけれど、牛歩な私は何時間でロープウェイ組に合流できるだろう。。
本日のロープウェイの始発は6時30分。
只今5時。
ロープウェイで上った方が、断然早い。。
入り口で入山時間を記帳。
私の前に、2人の男性が入山していた。
私で3人目。
皆さん早いなー。
絶対に追いつく事はないだろうけれど、同じコースを行く登山者がいるのは心強い。
いざ、出発!
最初は、遊歩道。
ビジターセンターの裏手やら、色々なところから道が合流している。
そして、1本の道。
ゆるやかな森林帯を、朝の気持ちのいい冷んやりとした空気を吸いながら歩く。
今日は長丁場だけれど、道のり自体の難易度は低そうだ。
水芭蕉の群生。
登山道の脇に、まだ残雪が残っていた。
脇で良かった。
冬山用の装備は一切携帯していないので、雪の上を歩く様なシチュエーションになったらどうしようと肝が冷える。
雪解けの水か…登山道が、時折ささやかな小川の様な状態になっている。
むき出しの石を辿って、なんなく抜ける。
そして、歩きはじめる事30分。
視界が開けて来た。
ここは、もしや「第一天女ヶ原」かな??
うん、きっとそうだ!
しかし、天女ヶ原って凄い名前だ。
霧の中から薄っすらと現れた天女ヶ原、そのネーミングと相成って幻想的な雰囲気を醸し出している。
ここは一合目らしい。
一合目!??
嘘っ!!!
テープで隠れているけど、二合目かな…??
ここで少し休憩し、先へ進む。
橋の架かり方、おかしいよね…?
川の上流に向かって架かっているではないか。。
ここは普段は登山道なのだろう。
雪解け水が流れ出ているのか、川がクロスしている。
水面に近い石を選んで辿りながら抜ける。
そしてまた川。
左の細~い土部分を、行ってみる。
草に押し出されて身体が川側に傾くのを、川の中に刺したトレッキングポールで必死に支える。
そして、滝のギリギリの所の浅い石を辿って、なんとか向こう岸へ。
冷や冷や~。。
5分後。
う~ん。
もはや、どうやって抜けたのか記憶に御座いません。。
だけどここまでは、冷や冷やしながらも何とか抜ける。
滑って転んだら全身びしょ濡れで、低体温症のリスク大だなと思いながら。
第一天女ヶ原から約30分、登り始めてから約1時間。
第二天女ヶ原に到着。
そして、ついに最難関。
足元は、不安定な雪。
左側に大きな石があるので楽勝♪
…かと思いきや、(写真では伝わりにくいけれど)、そこまでの道は細く川側に傾斜していて、トレッキングポールで支えても転ばずに行けるかどうかは一か八か。
私の体幹では無理だと、あと一歩のところで引き返す。
向こう岸までの距離は、助走をつけて走って飛んだら、もしかしたら成功するかもしれないという、これまた一か八かの絶妙な距離。
そして、賭けに出て失敗した時のリスクが大きすぎる。
この湿った気候の中、全身びしょ濡れは良くて「風邪を引く」程度、最悪の場合は低体温症に陥り死に至る。
進むにも戻るにも、すぐには人のいる場所に出られない場所だし、そういえば今の今まで誰にも会っていないくらいに、ひと気のない場所なのだ。
そんなリスクは取れないので、仕方がない。
靴を脱いで、素足で渡る事にした。
ハイリスクハイリターンな方法より、ミドルリスクミドルリターンな方法を取ろう。
靴と靴下を脱いでズボンをたくし上げ、素足を水の中に付ける。
うぉぉぉっ!!!!!?
予想以上に、めちゃくちゃ冷たい。
やはりこれは、雪解け水が流れ出て出来た川なのだ。
水…というレベルではない、氷水の様な冷たさ。
それが、ふくらはぎくらいの高さまである。
意を決して2歩目を川に入れ、両足を氷水に浸ける。
これだけで、痛いのか冷たいのか分からない様な、猛烈な刺激。
しかしこのまま進むしか方法はないので、ゆっくりと5~6歩ほど歩き、向こう岸に渡る。
上陸した陸地も雪なので、今度は足の裏に別の刺激を感じながら、何とか腰を落とせそうな岩まで歩き、ようやく息を付く。
ふぅ。。
ウェットティッシュで足を拭って靴下をはき、普段なら不快なだけの、その生温かさにほっとさせられる。
これが渡渉(としょう)か!?例の渡渉と言うやつなのか??
世の中には、渡渉をしなければ到達できない様な難易度の高い山もあって、私には数年先の話だなーと思っていたのだけれど、これが渡渉ならば、思いがけず私の登山経験に「渡渉」が加わる事になる。
それにしても、私は誰の事も追い越していないから、先に進んだ3人は、この道を難なく越えた事になる。
どうやって超えたんだろう。。
私は川が現れる度にこんなにもアタフタしているのに、皆さんスマートに越えていらっしゃるのだろうか。
何にせよ、無傷で抜けられたので良しとしよう。
もしも足を犠牲にしたくないばかりに走って飛んで失敗したら、この氷水は直ちに私の全身の体温を奪った事だろう。
恐ろしや。。
これ以上の難関は現れません様にと願いながら、先に進む。
帰りは絶対にロープウェイを使おう。
しかし、昨日は強風により終日運休だった。
もし今日も運休だったら、、、否応なしにまた同じ過程を繰り返さなければならない。。
そして、轟轟と流れる川。
これは流れが速いけれど、跨げる幅なので問題なし。
景色は相変わらず霧がかっていて、この誰もいない空間の雰囲気づくりに貢献してくれている。
そしてまた川。
距離は
長く、そして転べば川下に流されて行きそうだ。
なんかロープ貼られているし。。
しかしまぁ、靴を履いたままでも渡れる浅さではある。
川の流れに引っ張られて身体が転倒しない様に、踏ん張りながら慎重に進む。
そして、いつの間にか広大な雪原に出ていた。
視界も悪いし、道も分からない。
旭岳は、普段は初心者でも登れる難易度の低い山だけれど、ひとたび視界が悪くなれば道迷い遭難のリスクが格段に上がる山。
まさに、その通りだ。
GPSが無ければ、どっちの方向に進むのが正解なのか、まるで分からない。
これが更に霧が深かったり夜だったりしたら…。
少し進んで、後ろを振り返る。
これは、、、下山時こそ迷いそうだ。
下山するにつれて裾野が広がるから、分岐も増えるよね。
四合目の表記があったので、どうやら道は間違えていなさそうだ。
さっき道を間違えていたら、きっとあの辺を彷徨っていたんだろうな。。
大雪山広し。侮れない。
雪道を歩いていると、後ろから男性が追いついてきた。
「こんにちは」と爽やかに挨拶をして、そして颯爽と去っていった。
速い…。
あの男性は、川も雪も、さらっと難なく越えて来たんだろうな。
このコースで人間に出会ったのは、後にも先にも彼1人だった。。
そしてまた幾重にも分岐する。
雪がなければ、きっと登山道とわかり易く整備された道なんだろうな。
雪から、木道の様なものが顔を覗かせている。
ところどころに、そういった人工の気配を感じながら、自分の道は間違えていないのだという事を確認する。
そして、7時20分。
登り始めから2時間20分で、ロープウェイからのコースに合流。
ほっと、一安心。
ここからは、人も多いだろうし道迷いのリスクも軽減されるだろう。
私が出て来た道に繋がる場所は、気軽に入れない様に看板で塞がれていた。
注 意
旭岳温泉街までの登山道は、積雪が多く道が不明瞭です。
道迷いに注意!
…だって。
6月下旬の旭岳温泉コースは、注意が必要
2時間程度の、爽やかな森林登山が楽しめる(…はず)の、旭岳温泉コース。
6月下旬は、まだ雪が残り道が不明瞭で、道迷い遭難のリスクも高そう。
そして、ちょうど雪が解け始める季節という事で、川が増水して簡単な渡渉を何度も繰り返す道のりになる。
難易度高い!
…とまでは言わないけれど、特に私レベルの初級者には、それなりの覚悟が必要な道のり。
少なくとも、気軽なハイキング気分で軽装備で行くのは危険かも。
それに、私はこのコースの2時間20分の間、人間は1人にしか出会っていない。
トラブルが発生しても誰にも助けてもらえないので、全て自己解決しなければいけない。
大雪山グレードマップでは、グレード2『大雪山の自然とふれあう軽登山ルート』となっているけれど、この時期に限ってはグレード3『大雪山の自然を体感する登山ルート』くらいの難易度はありそう。
ちなみに、ここから山頂まではグレード3。
山頂を過ぎればグレード4『大雪山の厳しい自然に挑む登山ルート』だ。
グレードは5『大雪山の極めて厳しい自然に挑む登山ルート』まであって、遥か遠くの十勝岳への長い縦走路がそれに当たる。
さて、この後は旭岳山頂までの一般的な登山ルートだ。
「靴を脱いで、素足で渡る」
という発想に至ること自体が凄いと思いました。
(水温に関しては逆にどのぐらいのを想像されてたのかは気になりましたが・・・)
ブログ内では度々謙遜されていますが、写真からもわかるほど楽ではないコースを大過なくクリアされてますし、登山家としても初心者ではないように思います。
NKさま
水温は、水風呂やプールくらいを想像していました。根拠はありません。笑
登山は技術も経験も未熟なんです。
ただ、旅を通じて培った「目の前の状況にどう対応するのが適切か」を考える習慣みたいなものが身についているので、
発揮したとすれば登山スキルではなく旅スキルかもしれません。。
凄い道を、独りで、大変な思いで登りましたねえ!
それにしても、登山道と直交する川以外に、
登山道が雪解けで川になっているようにも見えます。
ひとりで歩くと、不安、心配、焦燥・・・わらわらと脳みそが
捕らえられそうです。
土日さま
そうなんです!本来の川と雪解けの川が交差していて、何が何だか…笑
誰もいないし案内板もないし、無事にロープウェイ組に合流できる様に、見えない何かと格闘していました。