ー世界はきっと、美しいー
大雪山系

【大雪山系】北海道最高峰の旭岳へ!視界不良で暴風の6月下旬

【北海道登山紀】2022/06/25

北海道最高峰の旭岳(あさひだけ)。

通常はロープウェイで中腹まで登り、そこから約2時間で登頂。

「初心者でも簡単に到達できる日本百名山♪」でもあるんだけど、北海道最高峰の地を踏むのに呆気なく到達するのも味気ないので、ロープウェイを使わずに麓の旭岳温泉街から登る「旭岳温泉コース」で、約2時間20分かけて中腹まで到達。

▼前回のおはなし▼
【大雪山系】旭岳|6月の旭岳温泉コースは雪原×雪解け水の渡渉で一苦労

姿見駅から旭岳へ

7時20分、ロープウェイの姿見駅からは0.2キロ離れた合流地点に到着。

標高は1614m。

ここから標高2291mの旭岳までは、3.1キロ。

(写真の奥の道は、いま出て来た旭岳温泉へと続く道)

もうロープウェイの始発は過ぎているというのに、人の姿がない。

こんな天気だしなー。

…と思っていたら、霧の中に人影を発見。

軽装なので、恐らく姿見周辺の散策客だ。

ここは、旭岳への登頂を目指す登山客だけではなく、散策路に散らばる池巡りを楽しむ観光客も訪れる場所。

合流地点から約15分で、旭岳石室に到着。

旭岳石室は避難小屋で、緊急時のみ使用可能

ここを使う事を前提とした登山計画を立ててはいけません。

すぐ近くには、姿見展望台

ここから姿見の池が美しく望める。

…はずなのだけれど、霧と雪景色で何が何やら。。

晴れた夏の日は、池に旭岳が映し出された美しい姿が望めるらしい。

姿見展望台には、愛の鐘が建っている。

これは、北海道学芸大学函館分校(現・北海道教育大学 函館校)の登山部を襲った大量遭難事故(11名中10名が死亡)を慰霊して建てられた鐘の塔。

視界が悪い中、道が分からなくなった遭難者へ、この鐘の音が彼等の道しるべとなりますようにと願いを込めて。

唯一の生き残りの男性は、助けを呼ぶ為に自力下山。

この旭岳石室へは辿り着けず(辿り着けていれば何人かは生き残れていたであろうに)、そして私が通って来た旭岳温泉コースからも大きく外れたルートを辿って満身創痍で旭岳温泉に到着。

視界が悪い中、あの雪原を彷徨う心細さ…今通って来たばかりなので環境の悪さが良くわかる。

その唯一の生還者が書いた本もある。

風が強くて気温も低いので、ここで風よけの雨具とダウンを重ねて羽織り、毛糸の帽子もかぶる。

完全に冬仕様。

ここから先は、装備の整う登山者のみが入れる本格的な道。

ゴロゴロとした岩場の道を進む。

視界が悪すぎて、大雪山の雄大さなんて感じられない。

大雪山は巨大な山塊で、その広大さを実感してこその大雪山登山なのだと『日本百名山』の著者の深田久弥氏も言っていたのに。

まるで富士山の様な独立峰に登っている様な気分だ。

すぐ隣は火山の噴火により陥没した「地獄谷」で、今も硫黄の匂いが立ち込めている。

視界が悪いので、谷側に落ちてしまわないか心配だ。

だんだんと、火山らしく赤茶けた大地になってきた。

いつの間にやら9合目!

旭岳は、視界が良好であれば難易度の低い山。

しかし、ひとたび視界不良に陥れば、道迷い遭難のリスクが高まるあまのじゃくの様な山。

視界不良時や積雪期の難易度は、普段の何倍にも跳ね上がるので油断できない。

こんな広い大地で視界が悪ければ、いつの間にか別の方角に誘われてしまってもおかしくない。

そして、この9合目あたりに山頂への道しるべとなる「金庫岩」がある。

しかし、金庫岩と間違えて登山者を別の方向に誘う「ニセ金庫岩」なる岩もあるのだ。

どれがニセ金庫岩なのかも分からないほどの視界不良だけど。

あれかな??

あまりにも遭難者が多発するので、今はロープが張られている。

ロープが埋まるほどの積雪期でなければ、よほど不注意でない限り大丈夫。

ありがたい!

山頂まであと少しのところで、約90度に道が折れる。

先ほどまでも強風だったけれど、この辺りは暴風

台風並み…いや、それ以上??

とにかく、屈まないと前に進めない程の暴風で、危険を感じるレベル。

下界だったら、確実に外出自粛令が出ているであろう…。

後に同日の登山者の日記を読んだら、危険を感じて登頂は諦めて、この辺りで引き返したという記述があった。

それくらいの暴風なのだ。

わたくしめごときが、無理して前に進んでもいいのだろうか??

これは引き返すのが賢明な判断なのでは??

何かあったら、「あの天候で登山を強行するなんて信じられません!」とのコメントがマスコミを通じて世間に流れ、細々と運営しているこのブログも特定され、「自業自得だ!」「税金の無駄遣いだ!レスキュー代全額負担しろ!」という罵詈雑言で溢れ、アクセス数が爆上がりするのだ。

…なんて真剣に考えていると、「山頂までもうすぐですよ!」と下りて来た人に励まされてしまったので、私は粛々と山頂を目指す事になった。

あれが本物の金庫岩かな??

それにしても、これだけ風が強いのに石ころが舞って襲ってきたりはしないんだな。

下界だったら、看板とかいろいろ固い物も飛んできそうな程の風なのに。

大雪山は、アイヌ語でカムイミンタラ(神々が遊ぶ庭)と呼ばれている程に美しい場所。

いや~、アイヌの神様は、これほどまでに荒ぶる神なのかい??

これが、偉大な神々の遊び方…ほんの遊び心のつもりだとでも言うのかい??

旭岳山頂と、視界不良の6月の縦走路

登り始めてから4時間50分、合流地点から2時間30分後の9時50分。

旭岳登頂!

山頂標識には2290mと記載があるけれど、今は2291mと言われています。

北海道の最高峰の地に立ったぞー!

何も見えないけれど…。

私はこの後、ぐるっと裾合平を一周するコースで計画をしていた。

大雪山の魅力は、その広大さにある。

幾重にも分岐した縦走路を、好きな様にコース取りをして巡る事にある。

富士山に登って山岳の高さを語れ、大雪山に登って山岳の大きさを語れ

そんな言葉があるくらい、大雪山は雄大なのだ。

これは、1923年(大正12年)に大雪山を踏破した大町桂月という文人の言葉。

しかしね~、こんな霧の中では山岳の大きさなんて感じられないんじゃないの。。

何も見えない中でとりあえず一周して、「裾合平を一周した」という達成感は得られるかもしれないけれど、一番の目的である大雪山の雄大さを感じるという点においては消化不良で終わりそうだ。

それに、何より危ない。

何度も繰り返す様だけれど、ひとたび視界不良に陥れば、幾人もの人々を遭難させ、そして時に命を奪う土地なのだ。

裾合平や黒岳、そのほか方々に繋がる縦走路から、5~6人ほどのパーティーが歩いてきた。

どうやら、旭岳から先の道の様子を視察に行って戻って来た人たちらしい。

「いや~、無理ですね!視界も悪くて風も強い。雪原も広がっていて…あれは完全に冬山ですね!」

冬山となっ!??

それを聞いて、山頂にいたほとんどの人は先に進むことを諦めた様子だった。

私も、素直に諦める。

ベテランさんたちが厳しいと言っている道に、無理して突入する事もない。

雲が晴れる様子もないし、少し休憩してから下山する事にした。

旭岳下山

10時5分。

下山開始。

今来た道を引き返そうと下山口に向かうと、昨日の宿で同室だったベテラン男性が登って来た。

彼は、このコンディションにも関わらず先に進むらしい。

この後は、遥か十勝岳方面へ数日間かけて縦走する予定との事だ。

私が憧れているコース。

凄いな~。

小者な私は、素直に下山。

雨は降っていないというのに、霧による湿気で髪の毛がびしょびしょだ。

また火山らしいゴロゴロとした茶色い風景の中を歩く。

歩きはじめてから40分後の10:45。

突然、視界がぱっと明るくなる。

一瞬前まで濃い霧の中にいたというのに、大げさではなく、瞬きをした瞬間に風景が一変した。

わぁーーーー!

霧の中に、こんな景色が隠れていたとはーーーー!

こんなに一瞬で景色って変わるのね!(それだけ風が強くて、雲の流れが速いという事かな)

ロープウェイの姿見駅まで続く道も、はっきりと見える。

雪の塊は、それぞれ池だろう。

手前の大きい塊は、朝に何も見えなかった「姿見の池」だ。

姿見の池の傍にあるのは、旭岳石室。

後ろを振り返ると、山頂はまだ深い霧の中にあった。

今ココにいる人だけの特権。

お隣は、火山の噴火でえぐれた地獄谷。

煙がモクモクと立ち込めている。

こんな谷の傍を登っていたとは。

登っていた時は、まるで富士山の様な独立峰に登っている様な気分だったけれど、ようやく広大な山塊の中にいるのだという実感が湧く。

これは是非、遥か遠くまで歩いてみたい。

山頂からの眺望は残念だったし、裾合平を一周するコースも諦めたけれど、ここでこんなにも雄大な景色を感じる事ができたので大満足だ。

大雪山の二面性を、一度に感じられたので逆にラッキーだったと思う事にしよう。

(だけど次回はずっと晴れだといいな)

姿見の池と旭岳石室が見えてきた。

11:25、到着!

下山にかかった時間は1時間15分。

ここで、登る前に着込んだ上着類を脱いで身軽になる。

ここからは綺麗な格好の観光客もいるので、汚い私は少し肩身が狭い。

旭岳石室は緊急時のみ使用可能という事なのに、中からは楽しそうな声が聞こえてくる。

ルールを知らないのか、知っていて使用しているマナー違反者なのか、もしくは緊急時のみ使用可能という誤解をしているのは私の方なのか。

予定を変更した事で時間に余裕ができたので、池巡りをする事にした。

(次回に続く。)

6月下旬の旭岳|感想

6月下旬の旭岳。

姿見駅に至る道は、雪原と雪解け水で大変困難な道のり。

夏シーズンは、きっと難易度低めの快適トレッキングなんだろうな。

【大雪山系】旭岳|6月の旭岳温泉コースは雪原×雪解け水の渡渉で一苦労

そして、姿見から山頂に至る道のりは、今回は視界不良で暴風だった。

普段はどうなんだろう…。

風が強いためか、ここから山頂までは寒い。

ウィンドブレーカーとウルトラライトダウン、それから毛糸の帽子を追加装備。

道は、急登や岩場もなく、ゆっくりマイペースに登れば難しい事はない。

視界不良で道迷い遭難のリスクが高い土地だけれど、その為に今はロープが張られているので、よほどボンヤリしていない限りは大丈夫かと思う。

その先に進む場合は難易度が上がるので、自分のスキルや装備としっかり相談!

今回は先に進めなかったけれど、下山時に大雪山の雄大さを感じて、いつかは先に進むぞと思う気持ちに拍車がかかる。

来シーズンには是非っ!

POSTED COMMENT

  1. NK より:

    このようなハードな環境をクリアされてるとは、登山家ですね。特にブログのくだりを想像される余裕まであるのはさすがと思いつつ、自分も不謹慎ながらちょっと笑ってしまいました。

    前も書いたかもですけど、似たような天候の変化をを自分もマチュピチュで体験してて(登山はしませんでしたが)

  2. NK より:

    すみません、途中で送ってしまいました。

    このような体験の素晴らしさは想像できるものの、
    自分の今の体力と根性では無理だと思うので、
    ちせさまのブログで疑似体験に専念したいと思ってます。笑

    • tabi-kurage より:

      NKさま

      登山家には遠く及びませんが…ありがとうございます。笑

      ブログのくだりは、私の趣味の登山と旅の両方で持っているリスクだなと常々思っております。
      特に私がバックパッカーをしたインドやアフリカなんて…そんな国に行った奴が悪い!と言われかねないですよね。

      マチュピチュは行った事がないですが、雲が晴れて、霞の中から突如遺跡が現れた姿なんて圧巻でしょうね!
      いつか見てみたいなぁ。。(遠い目)

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