ゴーキョ・ピーク(Gokyo Ri)5360m
パンガ(Phangga)4480m
ゴーキョの夜は、とても寒かった。
寒くて寒くて、真夜中に何度も起きた。
このトレッキングで目標としていた3ヵ所のうち、最後の挑戦ゴーキョ・ピークに登る。
朝からヤクも寒そうだ。
朝の湖は、また違った色合いを見せてくれる。
最後の挑戦!ゴーキョ・ピーク(5360m)
片道2時間という事だけれど、私は一体何時間かかるだろう。
登り始めるとすぐに、山と湖との美しい調和が望める。
荷物もなく身軽だというのに、この登りはとても辛い。
標高差570mほどの傾斜を2時間ほどで登ろうというのだから。
一歩一歩、ゆっくりと歩みを進めるのだけど、全くゴールに着く気配がしない。
登り始めて2時間が経つのに、ゴールはまだ見えない。
山の中腹からでも、景色は十分美しい。
もうここで十分じゃないかな。。。
もうやめたい。
そんな気持ちでいっぱいになる。
だって、全く先が見えないんだもの。
もしも今、「もう十分頑張ったんだから、ここでやめてもいいんだよ」と耳元で囁いてくれる人がいたならば、私は迷いなく下山する。
だけどそんな素敵な人が傍にいるはずもなく、今私の傍にいるのは「私」だけ。
私の中の私が「つべこべ言わずに登れ!」と命ずるもんだから、従うより他に道はない。
男の人でさえ、辛そうにゆっくりと登っている。
このトレッキングを通じて感じたのは、自分の「筋力の弱さ」。
脚の筋力が弱すぎて、しっかりと大地を踏みしめて歩くことができない。
日頃の運動不足のつけがこんなところで露呈するとは。
登り始めて3時間後、ようやく頂上らしきものが見えてくる。
あれが頂上という事でいいんだよね。
違ったら、、、もう帰るよ。
登り切ると、オランダ人親子とクマルとポーターがいた。
私も彼らに並んで座る。
マーク(オランダ人父)が、よく頑張ったねと頭を撫ぜてくれる。
氷河湖と氷河の通り道と雪山と。
その調和が美しい。
氷河の向こう側には、カラ・パタールぶりのエベレスト。
カラ・パタールの時ほど眼前に迫る感じはないものの、やはりその存在感には圧倒される。
カラ・パタール(5550m)とエベレストベースキャンプ(5364m)とゴーキョ・ピーク(5360m)と。
無理を承知で目標に掲げていた三冠を、見事に達成できた。
無理じゃなかった。
無理じゃなかったよ…!
名残惜しさを感じながら、ゆっくりと下山をする。
もうあの姿を直接見る事はできないのかと思うと、下山中の足が止まってしまう。
もう絶対に、二度とここへは来ない。
例え誰に誘われたって、絶対に。
だけど、人生のうちでたった一度、ここへ来て本当によかったと心から思う。
1時間ほどで麓に着いた。
私はこの町にもう1泊滞在をして、明日の朝下山を開始する予定でいた。
だけどゴーキョの夜は私にはとても辛く、そしてコンタクトレンズの残数がギリギリ(残り6日分)しかない事に気づいた。
疲労困憊でもう全く動きたくはないのだけど、下れるところまで下る事にした。
オランダ人親子たちは、明日の朝レンジョパスという峠を通って3日かけてナムチェへ下るらしい。
私もクマルに何度か誘われていて、検討もしていた。
だけど私はここで完全燃焼。
十分満足したし、これ以上は流石に頑張れない。
だから、素直に真っすぐ下山するルートを通る事にした。
明日から3日かけてナムチェへ向かう彼等、今日から2日かけてナムチェへ向かう私。
ここまで縁のあった彼らとも、もう交わる事はないだろうな。
いや、またあっさり出会う事もあるかもしれないけど。
最後に挨拶をしていきたかったのだけど、どこにいるかわからず断念。
散々お世話になったクマルにも、お礼を言いたかったのに。
ゴーキョ(4790m)→パンガ(4480m)
昼食を食べて、13時頃に出発。
湖沿いの道を真っすぐ歩く。
すぐに、2つ目の湖に通りかかる。
そして3つ目の湖に通りかかった頃には、霧がかかっていた。
霧の中を、ひたすらに歩く。
先が見えないというのは、なんだか不安。
そしてまだ15時にもなっていないというのに、まるで夕方の様に暗いから焦る。
宿を出て2時間霧の中の一本道を歩き続け、緩やか~な登りの先に町が見えた。
あれがゴーキョの隣町「パンガ」かな。
少し霧が晴れ、目の前に壮大な山が姿を現す。
この小さな町が、「パンガ」の様だ。
次の町「マッツェルモ」まで行けたらいいな~と思っていたけど、もう十分頑張ったから今日はここで終わり!
時刻は15:30。
所要時間は2時間30分ほど。
久しぶりに小さな町に泊まる。
最近はトレッカーがダイニングに数十名も集まるような賑やかな所ばかりだった。
こういう静かで素朴な雰囲気の方がほっとする。
宿には私を含め、カップルと1人客の計4人。
カップルはイチャイチャしているし、1人客の男性は難しい顔をしてタブレットを見ている。
だから特にトレッカー同士の触れ合いがあるわけではないのだけど。
ダイニングは既に暖かい。
奥さんが、頻繁にストーブに燃料を足してくれる。
燃料は、ヤクの糞を乾燥させたものだ。
たった4人の宿泊客の為に、そんなに消費しちゃってよいのか不安になる。
他の宿は、もっと遅い時間から火を焚いていたよ…。
まだ標高4000m台のこの町も、火から離れるととても寒い。
早く暖かいところに下りたいな。。。
ゴーキョ(Gokyo)4790m
↓(3時間)
ゴーキョ・ピーク(Gokyo Ri)5360m
↓(1時間)
ゴーキョ(Gokyo)4790m
↓(2時間30分)
パンガ(Phangga)4480m