答え合わせがしたいなと思う。
旅に出ると、幾度となく判断を迫られる。
その判断が明確に間違っていたとき、私は容赦なくその地の洗礼を受ける事になる。
その判断が明確に合っていたとき、私はホッとして、感謝して、時に心のなかで「疑ってごめんね」とつぶやく。
あのとき、あの男からのチョコレートを受け取らなかったのは、正解だったのか。
あのチョコレートの中身は、毒や睡眠薬か、純粋な親切心か。
あのとき、あの男に付いて行かなかったのは、正解だったのか。
誘われそうになった先で得る予定だったのは、多大なトラウマか、素敵な思い出か。
あのとき、あの女の子に荷物を預けなかった私が彼女に与えたのは、何だったのか。
カモを逃した悔しさか、親切心を疑われた悲しさか。
あのとき、あの場所の空気に不穏さを感じた私は足早に引き返したけれど、あの場所はなんだったのか。
空気に滲み出るほど治安の悪い場所か、ただの異国感か。
答え合わせがしたいなと思う。
旅に出ると、疑い深くなる。
旅に出ると、〇か×かの判断が付かない場合は×を選ぶ。
危険の可能性が頭に浮かべば、安全の可能性があっても賭けには出ない。
たった一つの「真実の危険」を回避するために、私はいくつの「無実の危険」を排除してきたのだろう。
その「無実の危険」の中には、素晴らしい旅の思い出がたくさん詰まっていたはずなのに。
それを容赦なく捨て続けるとは、なんと勿体のない事だろうか。
たった一度の「真実の危険」を恐れて、私はいくつの親切心を仇で返し、何人の人を傷つけただろう。
その人たちの中には、永遠の友となるはずだった人もいるかもしれないのに。
失った友が誰なのかという事にさえ、気づけない。
答え合わせがしたいなと思う。
だけど、それが出来るのは映画やドラマの世界だけで、それでも答えを知る事ができるのは登場人物ではなく、視聴者である第三者。
それでも私はこれからも、四択のマークシートで「2」ばかり塗りたくる学生の様に、2択で迷ったら「×」を選択し続けるのだろう。
そしてまた思うんだ。
答え合わせがしたいなと。
きっと、ずっと思う。
帰国しても、何年何十年経っても、旅とは縁のない生活にすっかり慣れ切っても、きっと思う。
あの時の答えは何だったのかと。
これが旅人の宿命。
平穏無事に帰国できた者の、皮肉な証し。
大変失礼ながらそろそろ普段の更新ペースに戻ったかなと思って油断してたら、結構なペースに復活されてて流石です。
以前にももしかしたら似たことを書いたかもですけど、
個人的な感覚として、人生でもう二度と会わない可能性が
極めて高い人から受けた親切のほうが、より強く印象に
残ってるケースが多い気がします。
自分もそんなにリスクを取るほうではないため、
そういう経験が多い方ではないと思いますが、
そういう明らかに見返りを求めない親切心というのは、
どこから来るのかとか、自分はそれに対してどう対応
していくのかというのは、本当に難しい問題だと思いますし、他の視点とも絡む重大な問題の一つなのかな
と最近の情勢も見ながら考えています。
NKさま
はい、以前にも同じようなコメントを頂きましたね。
今回はこの様なテーマですが、実際は素直に受け取った親切の方が何倍も多いです。
その中で、「リスクを取らなかったあの時の行動は正解だったのか」という葛藤の気持ちを表現してみました。
明らかに見返りを求めない「通りすがりの他人」からの親切心というのは、日本で生活していると受け取る機会が圧倒的に少ないと感じます。
だから、海外でそれを受けると嬉しいやら困惑するやら。。
しかし、それがきっかけとなって、帰国後の対人関係に多大な影響を及ぼすほどの出来事もあったので、とても大切な事なのだと思います。
正直このような親切は、個人によるので、一般化は難しいとは思いますが、あえて言うなら、宗教要素の強いところは比較的そういった親切の可能性が高いのかもと思っています。
昨今のことで宗教の危険性なども言われていて、自分自身も実質的にはほぼ無宗教なのですが、世界の中でこれだけ奇異な存在感を現代に至るまで保ち続けてるからには、それ相応のメリットがある部分もあるのかなと。
ただ、そういった要素が本当に強そうなディープなイスラム圏にはまだ行ったことがないので、あくまで仮設の段階ではありますが・・・
NKさま
私も、個人的な感覚ではありますが、イスラム圏の人たちは親切だと感じます。
中東圏には行った事はありませんが、イスラム教徒が多いエジプトやスーダンでは、人々が親切で穏やかでフレンドリーで、とても心地の良い時間をくれました。
また、インドでも「この町、雰囲気がいいな!」と思った町は、イスラム教徒の割合が他と比べて多いエリアだったりしました。
私はイスラム教徒に対してはポジティブな印象の方が強いですが、一部の過激な人たちが原因で、世間的にはネガティブな印象の方が強いのが残念です。